第5話 幻覚
皆さんは、自分のことが好きですか?
私は自分のことが大嫌いです。
可愛いと、媚ていると言われる声が嫌いです。
か弱そうだと、狙っていると言われるタレ目が嫌いです。
おっとりしていると、ぶりっ子だと言われる喋り方が嫌いです。
天然だと、バカだと言われる…頭の悪さが嫌いです。
可愛い、か弱い、普通、ブス、可愛い、可愛い、可哀想……と言われる自分が
大嫌いです。
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「ちょっときて」
と、猫目が特徴的な人と八重歯が特徴的な人とが、こっちを見て睨み付けてます。
いえ、顔は流石にモデルなだけあって、とても綺麗で整った顔立ちなんですけど、目は何処か殺気だっています。
「……う~ん……うん」
本当は行きたくありませんが、行くしか無いでしょう。
トイレ
トイレの手洗い場にて、猫目さんと八重歯さんが仁王立ちして腕を組み、明らかに苛立った顔をしています。
「あのさ、あぁいうこと…マジで辞めた方がいいよ?」
猫目さんはとてもとても怒っているご様子です。
それを引き継ぐように八重歯さんはさも心配してる風な顔を作り上げていった。
「そうそう……その間延びした声とか可愛いと思ってるなら辞めた方がいいよ?君の為にハッキリ言うけどさ……そういうのとかムカつく子がいるからね?」
いえ、自分の為でしょう?自分に不都合があるから辞めて欲しいんですよね?
ムカつく子って……、それって貴方のことじゃないですか。
間延びした言葉が可愛いと思ってるか?……可愛いと思ってますよ。だって、私は可愛いですもん。
というか、長年そう言われました。先生にも男子にも女子にも……可愛い可愛いと……言われてきたんですから自覚しますよ。
でも、わざとじゃないんです……一応。直すことは可能ですが面倒くさいんです。
とまぁ、色々といいたいことはございますが……。
「……っぁの…………ごめんなさいぃ」
私は取り合えず謝ります。
右手をギュゥッとにぎりしめて口元におき、目をうつむかせつつ、涙もちょっとだけ滲ませます。
可愛いでしょう?か弱そうでしょ?……と、全身でアピールします。
「…っ…」
「…ぅ……」
効果はてき面です。二人は罪悪感にかられた顔をしておられます。
まぁ、そもそも彼女達は私を戦力外だと思っていたのです。こんなものがモテる筈がないと思っていたので、ちょっとプライドが許さなかったのでしょう。
そして、冷静になってみると『こんな子に嫉妬している』という事実にプライドが許さなくなったのでしょう。
「…どうする…?」
「でも…」
けれど…引っ込みがつかないという顔もしてらっしゃいます。
ふむ…どうしたものか…。
ガチャ…
「やめなよ…二人とも」
ドアを開けて、いいタイミングで助けが入りました。何とリンカちゃんではありませんか。
やけに堂々としており、宝塚風の美人なのでとても様になっております。
「リンカさん…」
「リンカちゃん」
「弱い者いじめって…よくないよ。こんなか弱い女の子いじめて楽しい?」
弱い者…ですか。か弱い…ですか。
いえ…まぁ、別にいいんですけどね。
「二人ともさ…浮かれてるのは分かるけど、冷静になろうよ」
こんな子が本気で相手にされる訳がないでしょ。
そんな言葉が聞こえた気がしました。いえ、被害妄想というのは分かってはいるのですが…なんか、そう聞こえてしまいました。
「そうだね…」
「すみません」
二人はリンカちゃんに諭されてしょんぼりと恥ずかしそうに元のテーブルへと戻っていった。
リンカちゃんは一仕事を終えたかのようないい笑顔です。
「私…帰りますねぇ~」
私はボソリといいました。
「ぇ~?もっといようよ」
「いえ…いいです」
街中
グーギュルルル……お腹がとても空きました。
実質、レタス一枚しか食べてない訳ですしね……どうしましょう。
「セナさんは……なんか甘いものしか進めなさそうだしぃ~。う~んどうしましょう~」
リアンは、たぶん呼んだら来てくれるんでしょうけど……そもそもスマホ持ってませんし……。
「佐吉……」
一瞬、佐吉を思い浮かんだ。
別に佐吉は料理上手な訳でも金を沢山持ってる訳じゃ無いんだけど、何故か浮かんでしまった。
佐吉ならきっと、『自分で作れ、あ!味噌カレー』とか言い出すんだろう。
それで人参を入れるか入れないかで口論になるんだろうな……
「ん?鶴美?」
聞き覚えのある声が聞こえました。
私の耳はどうなってるんでしょうか、ちょっと可笑しくなってるんですね。分かります。分かります。
「鶴美、どうしたんだ?」
今度は幻覚が見えました。
一度、反抗期か何かで金髪に染めたけど、何か面倒になったらしく放っておいたらプリンになった髪の毛。
少し目が釣っていて人相が悪いが、悪い人ではないという雰囲気。
さて、どうしましょうか?分かりきっていることです。
これが幻覚であろうとなかろうと、私がやることは一つであります。
っせーの
「佐吉ぃいい……!」