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第1話 爆弾娘

「ん……んん」


ダルくて重すぎる体に鞭を打ちつつも、鶴美は目を覚まして起き上がる。


ッポーっとする頭を手で少し叩きつつ、彼女は枕元にある下着を手にとって着替え始めた。


普段ならば、横にリアンが寝ているか自身を抱き締めてるかのどちらかなのだが、今日はいない。代わりに置き手紙があった。


『わるい撮影にいく。遅くなるから、これで何か食ってろ』


その手紙と一緒にあったのは、黒いカードであった。


ご飯代としては余りにも高額だが、鶴美にとっては最早お馴染みであり、これとは別にリアンからはカードを何枚か渡されている。


「ふぅ~ん~」


鶴美は何を食べようかと考える。

普段ならばメロンパンだ。それ一択で終わる。しかし、今日は別の物が食べたい気分である。


焼き肉は論外だし、サラダもあまり好きではない。レストランは味が分からない。ファミレスはいやである。自分で作るのもダルい。


「佐吉に……」


一瞬だけ幼馴染み(恋人もち)の佐吉を脳裏に浮かべたものの、すぐに消し去った。


どうしようかと鶴美は考えた。考えて考えて……。


「そうだ~リアンの撮影でも見にいこう~」


考えることを辞めて、鶴美はそう結論を出したのであった。






「リアンくんどこだろ~」


鶴美は複雑で迷路じみたテレビ局に足を踏み入れて辺りをキョロキョロと見回していた。


本来ならば、一般人であり素人の鶴美が入れる場所ではないのだが、リアンから渡された関係者カードによって中にはすんなり入る事が出来た。


問題は、リアンの撮影所だが迷路じみたテレビ局のせいで既に迷子になってしまっている。


「ん~どうしよう~」


スマホは前日のうちに水没『させた』ので今は待っていない。リアンと連絡はつかない。


どうしたものかと悩んでいると……ポンと肩を叩かれた。


「ん~?」


後ろを振り返ると綺麗な長身の女性がいた。


身長は170近く、足は長く細いがしっかりとした筋肉があり、腕もしなやかに伸びている。


彼女は雑誌で見たことがあった。確か、モデルのリンカという女だ。


顔の造形はツリ目が特徴的で少しキツメであり、宝塚にいそうなタイプの美人な女性である。


身長は150手前、タレ目と困り眉が特徴のおっとり顔である鶴美とは全てが正反対の女性がニカッと爽やかな笑みを浮かべていた。


「貴女、新しいモデルね?」


そう彼女は自信満々にいった。


最近では背の低い女性もモデルをやる時代であり、鶴美の容姿は悪い方ではなく、ギリギリではあるがモデルとしていけそうである。


加えて、ここは雑誌モデルの撮影エリアといえる。


女性は、鶴美を新しいモデルかもしくはモデルの卵か読者モデルと推測したのであった。


「違うよ~」


「あぁ、じゃあ読モね。暇だったら、よかったら私の撮影みない?」


鶴美は否定したものの、リンカは彼女の手をひっぱり撮影所を指差した。


鶴美を迷子のモデルの卵と思っているらしく、おっとり顔の困り顔で見るからにフワフワ危なっかしい雰囲気をもつ鶴美を放って置けなかった。


「ん~うん、いいよ~」


鶴美はポワポワと、もう否定するのも面倒になり、リアンのこともどうでもいいと判断して首を縦に降った。



☆☆☆

撮影所


パシャリパシャリとシャッター音とフラッシュの光が広がる。


モデルは複数いるのだが、その中でもリンカが一番目立っており、ポーズ一つ一つが輝いてみえた。


「わぁ……すごぉい~」


鶴美は手を叩いて純粋な羨望を向ける。

鶴美にはリアンというとんでもない魅力の化け物である俳優が近くにいるが、ある意味でそれ以上の衝撃を受けていた。


例えるならば、『一目惚れ』それに近い衝撃と羨望だろう。


「ふふん……これでも私は一番のモデルだもの」


鶴美の羨望を受けつつ、リンカは撮影を終えて戻ってきた。


鶴美がパチパチと拍手を送るとリンカは満更ではない表情を浮かべる。褒められるのは常であるが、鶴美からの羨望は嬉しいものがある。


「そうだ、一緒に撮りましょう!」


物凄いナイスアイデアを浮かんだのごとく、リンカは鶴美の手を握ってそう提案した。


「ぇえ~いいよ~私はリンカちゃんみたいに綺麗に撮れないし~」


「まぁ、そうだけど……でも、記念にどう?」


「やだ~メロンパンでも食べるし~」


ホンワカポワポワとしつつも、確固たる意思で鶴美は拒否を示した。


「そっか~まぁ、最初は照れるよね」


鶴美の反応を拒絶ではなく、照れからだと思ったリンカは心の底から残念に思いつつ、それ以上強制することはなかった。


「座りなよ」


「うん」


リンカに言われるがままに鶴美は椅子に座り、その横にリンカが座る。


「そういえば名前は?」


「鶴美~」


「鶴美ちゃんか、可愛いね」


「そんなことないよ~よくブスって言われるもん」


「酷い事いう子もいるんだね。何だかこう…か弱そうで、心配になりそうで、庇護欲をそそられるのに」


「あはははは~」


鶴美は笑った。


その評価はよく言われるのである。そして、同じぐらいに『ブス』と言われる。


「私さ~最初は人見知り激しかったけど……好きな人がアイドルでね。だから、この業界に入ったんだ」


「そうなんだ~……スゴいね~」


リンカがいきなり語りだしたことに鶴美は戸惑いをみせつつも、相づちをうつ。


話の腰をおらず、いいタイミングでいい感じに相槌をうつのが上手な鶴美に思わずリンカは饒舌になっていく。


「それでやってみたら成功してね……今ではその人が……こ、恋人になれたんだよ」


「誰々~恋人ってだれ~?」


鶴美は特に興味はなく、ぶっちゃけどうでも良かったのだが、今の場面は取り合えず聞く場面だと判断した為に聞いた。


すると、リンカはおずおずと内緒話をするように鶴美の耳元で囁いた。





「セナ……ヘブンクロスの……セナなの」





言ってしまったと顔を赤らめつつはにかむ。


鶴美は一瞬だけ表情を凍らせたものの、ニコニコポワポワ笑みを崩さずに言った。




「ん~でも、その人は多分私が好きだよ?」


初っぱなから爆弾発言でございます。


鶴美のコレは自己防衛本能のようなものです。

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