第6話 佐吉視点
その日は特に用事はなかった。
恋人の可憐とデートに出掛けていたのだが、彼女が急に用事が出来てしまって先に帰ってしまった。
なので、適当に町をブラついていたのだが……
「ん?鶴美か?」
幼馴染みを発見した。
アホ毛と、黒髪、困り眉にタレ目が特徴のおっとり顔の鶴美は、目立たないようでいて、顔がとても整っているので意外と目立つし、多分幼馴染みとしての欲目もあったのだろう。
どこか暗い空気があって、疲れはててるようだった。
「鶴美、どうしたんだ?」
もう一度、俺が聞くとつるみはこちらを向き、目を見開いた。なんか、化け物とか幽霊をみたような目をして……
「佐吉ぃいい!」
そして、思いっきり飛び付かれた。
☆☆☆☆
取り合えず、飛び付いてきた鶴美をキャッチしてそのまま抱っこし、近くの公園へと歩み、ベンチに鶴美を座らせた。
その後、俺は自動販売機でブラックコーヒーを買ってから、ベンチに戻ってきた。
「ほれ、ブラックコーヒー」
「ありがとぅ~」
鶴美はホケボケと笑いながら両手でコーヒー缶を受け取り、コクコクと美味しそうに飲んでいた。
その姿は小動物を思わせる。
「お前、なんかあったの?」
俺がそう聞けば、鶴美はプハーッと缶から口を離してから俺に話す。
「あのねぇ~合コンがあってぇ~で、色々とあって抜けてきた~」
「ふ~ん」
色々とツッコミ所はあるが、俺はあえて突っ込まない。
きっと、何かあったんだろうし、多分、何かで傷ついたのだろうが、それは鶴美から言わせるべきことだ。
「んっとね~私ってどう見える~?」
突然、そんなことを言われた。
ホケボケしてる風で…どこか苦しげに。
「ん?そうだな」
鶴美はハッキリ言えばバカだ。
行動も遅いし、間延びした言葉を使う。性格もマイペースで基本的にニコニコと笑っているし、おっとり系の可愛いさがある。
だけであって、清楚でも無ければ鈍感でもなく、優しい訳でもなく、純粋でもない。かといって、本気で悪い子かと言われればそうでもない。
そして、『可愛い』『か弱い』という言葉が大嫌いだ。
「お前はさ、か弱く見えるけど意外と強か……でも、本当の弱音は絶対に言わないよな…………今、結構まいってる状況だろ?」
大丈夫か?と聞けば、鶴見はどこかホッとしたように息を吐いた。
「ん~っとねぇ、リアンが若干ウザイィ~んでもって、周囲もウザイィ~」
何処か憎憎しげに彼女はそういった。
因みに、このウザイは暴力やいじめではなく『筋違いな優しさ』を受けているときの声だった。
「本当にウザイ~」
全部の状況は言ってないが、それだけで結構追い込まれた状況であるのは分かる。
けど、鶴美は絶対に言わないだろう。
涙目になって俯けば大体なんとかなると思っているという性格の悪さもあるが……プライドが許さないのだろう。
「あんさ…もし、本当にヤバイと思ったら俺のとこ来いよ…なんとかすっから」
そう言ったら、彼女は笑った。
ホケボケではなく、安心したと、救われたとでもいいそうな顔で……綺麗に笑った。
「佐吉くんは優しいね~本当の意味で優しい」
という癖に、鶴美は助けを求めない。
面倒臭いのだ。なんとかされるのが、助けられるのが、そして……『幼馴染』という楽な関係に重みが生じるのが、変わるのが…
大嫌いで面倒なのだ。
「鶴美!」
大きな声がした。
そっちを見てみると、サングラス姿の薬王寺リアンさんがいる。その横には明らかに高級だと分かる車があった。
「あっれ~リアンじゃない~愛人さんは?」
鶴美はホケボケ笑顔を晒してわらっていると、薬王寺さんはこっちへと歩いてきて、鶴美の腕を掴んだ。
「先に帰した……帰るぞ、乗れ」
「ん~うん」
鶴美は一瞬迷った後に、車の方へと歩く。トテトテと擬音語が出てきそうだった。
その後、リアンさんも歩こうとしたが…。
「リアンさん」
俺は、彼を引きとめた。
「…なんだ」
「鶴美のこと…ちゃんと見てやってください。それか…覚悟がないなら『本気にならない』で下さい」
鶴美にとっては、覚悟がない癖に本気にされるというのは何よりも苦しいことだ。
余計なおせっかいだとは思うが、それだけは言いたかった。
「お前らがどういう関係性をもって、どういう信頼関係かなんてしらないが…」
リアンさんは余裕そうでありながら、憎憎しげに俺を睨みつけてこういった。
「お前では出来ない覚悟と力が俺にはある」
佐吉と鶴美が恋人にならないのは、もう面倒くさいからです。後、愛の最上級が恋人という価値観ではないからです。
佐吉は恋人を結構大切にしてますよ。