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即興小説

可愛いやつ

作者: 瀬古冬樹

 毎日見ても、見飽きない。

 毎日触っても、もっと触りたいと思う。

 それほど魅力的で可愛らしい体。


 あぁ、待って! しゃ、写真撮らせてー!

 そう思っても、時、既に遅し。

 素早い動作でその体をひねって、反動で飛び上がる。カメラのフレームから一瞬で消えた。

 連写にしておくべきだった!!

 その愛らしく可愛らしい肢体を、どうしたらカメラにおさめられるのだろう。カメラのシャッターが間に合わない。撮れたと思っていても残像のようにぶれていて。

 カメラ撮るくらいなら、触りまくりたい! その足を、お腹を、いつまでも撫でたい。

 そう思ったのが伝わってしまったのか、今度は隠れて姿を現すことすらしない。


 私の、この愛でたい気持ちは完全なる一方通行。相思相愛だと思っていた蜜月はあっという間に終わってしまった。

 今はただ、私が一方的に追い回す。

 カメラ片手に、あるいは撫でるのに備えて指を動かしながら。

 気まぐれな彼女は、可愛らしい体を私に見せつけて、けれど触れる距離にまでは近づかない。


 なんて、ツ・ン・デ・レ!

 いや、デレなんてないから『ツンツン』だ。


 どうしても眠たい時、たまに構って欲しくなってしまった時、そんな時は甘えるように膝に乗ってくる。その姿の、またなんとかわいらしいことよ。

 私は彼女にメロメロだ。



※ ※ ※


 その日、私はいつもより遅く帰宅した。

 いつもなら、私の布団で眠って玄関まで迎えにも来ない彼女が! 私を玄関まで出迎えてくれたのだ。

 なんという僥倖。

 だが、僥倖はそれだけにとどまらなかった。


 玄関から家の中にあがると、私の足元でスリスリ体をこすりつけるようにする彼女。マーキングだ、きっとマーキングに違いない。この行為は!

 私は鼻息荒く、彼女を見下ろしていた。なんて素敵なんだろう。今日の占いは、きっと全部一位だったに違いない。

 そう思えるほど、今の私は幸せに浸りきっていた。

 柔らかな毛が足に触れる感触。


 あぁ、私、今、幸せだ!!


 洗面所で手洗いうがいを済ませ、彼女を抱き上げる。小さな頃に比べたら、かなり大きくなった彼女は、手の中でズッシリと、その存在を主張している。

 彼女を抱えてソファに腰掛ける。

 それからは私の独壇場。

「か、かわいい」と、何度も何度も、彼女に頬ずりしたり、触り心地の良い体を撫で回した。



 私はすっかり、猫好きのバカになっている。

 いつものことだ。

 あぁ、このかわいい、かわいい猫ちゃんが愛しくてたまらない。


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