山茶花の頃 寂しい家 其の五
「……でござりますれば、私めこれより参ってまいりまする」
「……何処へ?」
「何処へ?と申されましても……ご縁の神様の元にござりまする。運の良い事に、私めご縁の神様とご懇意頂いておりますゆえ、ちとご相談に参ってまいりまする」
「あっそう……?」
「あそこのお婆さまが、心置きなく参られるように、お孫さまがお姉上さまとご縁ができまするお約束を頂きまする」
「………?」
「ああ……若申し訳ござりませぬ。お婆さまはお孫さまの優一さまと、若のご友人さまのお姉上さまの美沙さまとがご一緒になって頂きたく、なかなか彼方に参られないのでござりまする」
「彼方……って」
「あの世にござりまする」
「ああ……あの世か……?ええ?成仏できなくて生霊ってんの?」
「お年も召されておりますれば、最早寿命は尽きておりまするが、いかようにも優一さまがご心配で、三途の川をお渡りになられぬのでござりまする」
「……って言ったって?」
「優一さまがお付き合いの方が、如何様にしても、お婆さまにはご心配の方なのです」
「はあ?」
「いや……確かにあの方では幸せになれない……と、山茶花殿もご心配でござりました」
「山茶花殿も知ってるのか?」
「一度だけお連れになったとか……。お婆さまは一目でお気に召されず、お気に入りの美沙さまとのご婚礼を、切に願われたとか……」
「う……ん。なるほど……。死ねない程気にいらねぇなんざ、どんな彼女さんだ?」
「その者には、悪質な鬼女が憑いておるとか」
「ええ?マジそんなのいんのかよ!……退治できねえの?」
「鬼女が付くには、それなりの理由がござりますれば、そう簡単にまいりませぬ。以前母君さまが巻き添えを喰いました折も、確かなる理由がござりました……兎にも角にも鬼女の付いた者を娶れば、その男は決して決して幸せになれぬどころか、下手をすれば食い殺されかねませぬ」
「鬼女怖えな……」
「あっ?もしや若さま、マジ食いつかれておる想像をなされてはおりますまいな?」
いえもりさまが意地の悪い目付きで、圭吾を見て言った。
「はあ?いやいやまさか、あるわけねぇべ」
慌てて否定するから余計に怪しくなる。
「ものの例えだべ?大昔ならまだしも、今のご時世で……ははは……」
怪しげな面持ちでいえもりさまは圭吾を見つめるが、どうやら当たっていた事は、一目瞭然という形となった。
「……だったらさっさと行って来いよ」
それを誤魔化すように圭吾が催促する。
「は……さようにござりまするな……それでは行ってまいりまする」
いえもりさまは大真面目に頭を垂れて、圭吾に挨拶をして天井に消えて行った。
……まじかぁ……鬼女ってなんだ?
いえもりさまがいないので、得意と化したスマホ検索をする。
……女の鬼ね、なるほど……人間の女が鬼と化した妖怪……ふーん。妖怪なのか?今時いんだな……
そんな事を呑気にしていて毎日が過ぎた。
……まあ……何時もの事だが、いえもりさまは何時までたっても帰って来ない。
圭吾も圭吾だから
……帰って来ねぇな……
くらいにしか思っていないと、ある日バイト先で久々に一緒になった古関が、疲れきった様子で圭吾に言った。
「とうとう……るようになったって……」
「はあ?」
「姉貴がとうとう、裏の家の窓から覗く白髪の婆さんを見るようになったって言い出して、寝込んでんだ」
「え……ええ?ええ?マジ……まじかよ?」
「マジだよ……。その様子を聞いた母親は、裏のお婆さんに間違いないって……まじ怖えよ……」
「そりゃ……怖えわ」
「怖えよ……。どうしよう田川……」
「どうしようったって……俺だって怖えし……俺何にもできねーよ」
「……だよなだよなぁ……」
そう言うと古関は肩を落としてうな垂れた。




