山茶花の頃 寂しい家 其の一
圭吾の友達の古関の家の裏の家は、今は誰も住んで居なくて、閑散とした空き家になっている。
かろうじて古関が物心がついた頃に、白髪の細っそりとした、とても優しい感じのおばあさんが住んでいてた記憶はあるが、古関のお祖母さんが生きていた時は、親しくしていたが、お祖母さんが亡くなってからは、頂き物のお裾分けや、お土産のやりとりくらいしか付き合いは無くなってしまったから、裏のおばあさんが、別に暮らす子供達の所に引き取られたのか、亡くなってしまったのかは、古関のお母さんはわからない。
或る日気がついた時には、その家から人の気配がなくなっていたのだ。
気配がなくなってから数年……。
買い物をしていた古関のお母さんは、裏のおばあさんが四人の子供達によって、遠い施設に入れられた事を知った。
もはや子供達の事もわからない程になってしまったが、元気……というのだろうか?兎に角、病気をする事もなく、施設で暮らしているらしい。
古関の家には幾度となく遊びに行っているが、閑静な住宅街の中にあって、通りに面して駐車場があり、その脇に玄関がある。
玄関から奥にそんなに広くない庭があって、お母さんが好きなのだろう、季節ごとにいろいろな花を咲かせている。
そしてその庭のフェンスの向こうに、人気のない二階建ての家が、とても寂しげに建っている。
「あそこの家だ」
古関は、山茶花が見事に咲いているその家を見ながら言った。
山茶花は右手側にある、たぶん庭に続いているのだろうと想像させられる、古関の家からはほんの一部しか見る事のできないフェンスの向こうにあって、長く主人が不在の為かとても大きな木となって、それは見事に咲いている。
「そういや、昼間見ても二階の窓はちょっと気味悪いな」
「……だろ?全くそっちの気配に疎い俺でも不気味」
「俺もないけど……不気味だわー」
チキンな男子二人が、チキッた会話を交わしている。
人の気配を消した家は、ただ静かに建っている。
二階の窓は雨戸の無い使用なのだろう、閉まっているのを見た事もなくて、窓奥に微かに見える室内は、壁紙が剥がれカーテンが所々破れ、不気味な様子を醸し出している。
二階に上がると古関と、古関のお姉さんの部屋と、ちょっと大きく両親の寝室がある。
お姉さんの部屋が奥で、裏の空き家のさっき下から見上げた、例の不気味に感じる部屋が、窓の向こうにとても近くにあるという。
数年前……いつの頃だったか忘れたが、カーテンを開け窓も開けていた事もあるが、此処数年は何故だか窓どころか、カーテンすらも開ける気分にならないのだそうだ。
勿論裏のおばあさんが居ないなんて、知る由も無い頃からだ。
古関の姉弟がまだ小さい頃は、同じかちょっと年かさの子供達と、窓越しに顔を合わせた事もあったが、いつの頃からか窓越しに人の気配はしなくなった。
古関達が成長をするにつれ、裏のおばあさんは年を取り、二階に上がる事もなくなってしまったのだろう。
おじいさんが亡くなり、そしておばあさんの気配もなくなってしまった。
昼間庭から眺めるその家は、とても静かで寂しげで……そして不気味な雰囲気を醸し出していた。
不気味だと言い出したのは、姉の美沙さんからで、判然としていなかったものの、何かいいようもない感じを持っていた古関は、その時自分が持つ感じが、美沙さんと同じ事を悟った。
母親に言っても、両親はそうは感じないらしく
「人が住まない家だから」
と言われるくらいだった。
だが古関と美沙さんには、それだけでは済ます事のできない、なんとも不気味な感じが、どうしても拭う事ができない。
「俺もねえちゃんも見るわけじゃないんだ」
古関は自分の部屋で圭吾に言った。
「……わかってるって」
「……でも、なんか感じんのよ」
「わかるわかる」
「マジ?この気持ちの悪さ、マジわかるか?わかるわけないよなぁ」
「いやいや、訳は言えんがわかるんだ」
「マジか?マジか?田川……」
古関は悲痛な面持ちで言った。