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不思議噺 ファックス 其の終

 その森林は畑の中にあって、住宅街として開ける感じの無い所だから、価値が高い物ではなかった。

 たぶんその事を言っていたのだろう。

 そしてその森林を、克郎さんに連れられて見に来て、香川さんはびっくりしてしまった。

 森林を少し入った所に、二階建ての家が建っていたからだ。

「はあ?なんだこれ……」

「はは……びっくりだろう?幼い頃に少しこんな所に住んでいた記憶があるが、私には怖い記憶しかない。だけど父にとっては、とても懐かしく大事なものだったんだ」



 麦川さんの亡くなったご主人の実家は農家で、山林の中に家が建っていた。

 ご主人が結婚をして子供が生まれ、その子供が小学校へ上がる頃、その辺り一帯が開発され山林も畑も殆どが売られ、山は切り崩され平地となって沢山の住宅街やマンションが建った。

 最寄りの駅の周りには、デバートが建ちスーパーが建ち、ショッピングモールが建った。

 麦川さんの亡くなったご主人は、マンションやビルを持つ資産家になり、事業を始めれば大儲けができた。子供たちが成人して点でに家庭を持つと、今麦川さんが住んでいる所に、余生をゆっくりのんびりと過ごそうと、家を建ててまださほど開けていなかった土地を買って、駐車場やアパートなどにして、麦川さんが困らないようにと残してくれた。

 だが、麦川さんの亡くなったご主人の、本当のお気に入りは、この沿線上の終点間際の、この畑と森林が多いこの町だった。

 亡くなったご主人は、幼い頃に住んでいた、夜になると真っ暗闇が続き、見上げれば大きな樹木が立ち並ぶその先に広く広がる、満天の星と大きく美しく輝く月明かりに照らし出される、山林の中に小さく建つ、あの実家が年を負う毎に懐かしくなっていたのだろう。

 誰も住む筈の無い家を建て、ひとり来ては遥か彼方の懐かしき日々と人々に思いを馳せていた……。

 その大事な場所は亡くなった後は、誰にも思い出されず忘れ去られてしまっていたのだ。


 ーたぶん香川さんにファックスが届かなければ、誰一人として思い出す事も無く、訪れる事も無く朽ち果て、そして気づかれる事無く山林は売り払われていた事だろうー



 圭吾は、古い建物だが中は最新の家電が揃えられている、その家のリビングで話しを聞きながら、外の照明に照らし出される樹木と、その先の先の暗闇を見つめていた。

「一人で怖くないっすか?」

「別に……ってか、この林に入って来て、家が建ってて煌々と電気が点いてる方が怖くね?」

「はは……」

 外では猫たちが元気に走り回っている。

「あの猫たちが例の野良猫っすか?」

「あっそうそう。田川も寄付してくれた、あいつら」

 結局香川さんは行き場にも困っていたし、克郎さんの親切に甘える事にして、野良猫と共にここに引っ越して来た。

 ただ棚ぼたで頂くのは心苦しいので、少しづつの分割で買わせて貰う事にしたが、本当に地価が安いのに加え、麦川さんが安くしてくれたので、直ぐに払い終わりそうだ。

 それどころか、克郎さんは香川さんが暮らすのに困らないように、家具や電化製品を揃えてくれたので、古い家屋の中は最新式の物が揃っているというわけだ。

 猫たちの出入りは、トイレの壁の下側に小さな窓があってそこからと、風呂の小窓や二階の窓などから、木々を使って登ったりして、不自由なくできるし、誰に遠慮する事なく森林で遊べるし、遊び場所には困らないし、とてもいい環境だ。


 とても不思議な空間だが、なぜか守られている感じの空間だ。

 不気味な一方安心感を与えられる感じだ。


 翌朝、香川さんのあとに従って森林の中をずっと歩いて行くと、樹木が途切れてそれはそれは広い空間が目の前に現れた。

 びっくりしながら突き当たりまで進むと、眼下に広く広がる畑と点在する人家があって、とても美しい光景だった。



 それから暫くして、麦川さんは克郎さん達に看取られて亡くなった。

 香川さんは相変わらず、バイトに大学に忙しい日々を過ごしている。

 あれからファックスは壊れてしまい……いやいや、とうに壊れていたのかもしれないが……。香川さんの所にはファックスは無くなった。

 そして、バイトが一緒で帰りも一緒になると、圭吾をあの猫たちが待つ、不思議な家に招待してくれる。


最後までお読み頂きありがとうございます。

夏頃に、不思議なファックスが、二日も届いた事があります。

流石に三日めは無かったですけどね(^_^;)

こんなものが間違って届くなんて…ありえないだろ(°_°)

そんなちょっと不思議な出来事が、いろいろあったのに、最近は全く無くて……。

うーんと頭を振って、ほんのちょっとの不思議を探して、書いております。

暇潰しのひと時にお読み頂ければと思います。

ありがとうございました。

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