不思議噺 ファックス 其の三
翌日から、不思議な事にファックスは届かなくなった。
一つ気にかかる事はなくなったが、他のアパートをいろいろと探しているが、困った事になかなか見つからない。
「あと二年もない事だから、少し高くなっても仕方ないから探しなさい」
と親は言ってくれたが、どうした事か随分遠くまで探しているが見つからない。
大家さんには、探しているが見つからないので、見つかり次第直ぐに出て行くという約束で、もう少し待って貰う事にしたが、近所のおばさん達の嫌がらせは酷くなった。
「野良猫はみんな殺してやる」
何処かで聞いた台詞だが……。
「野良猫はみんな殺してもいい」
とか言われ、香川さんはちょっと人間不信に陥りかけたが、大学の友達や圭吾達バイト仲間が少しづつお金を出し合って、野良猫達の避妊手術の手助けをしてくれたので、人間不信にならずに済んだようだ。
さて、そんなアパートの追い出しや、野良猫問題でてんやわんやして日が経った頃、びっくりするような事が母親から電話で聞かされた。
香川さんのおばあさんの幼なじみの麦川さんは、あるお金持ちの後妻さんになった。
ご主人のお金持ちには子供が三人いたが、もう成人していて長男は家庭を持っていた。
勿論再婚については、財産目当て……と思われる事も仕方ない事で、すったもんだしている内に、ご主人が病気になってしまい、結婚まじかだった娘が、とても面倒を見る事ができないので、麦川さんは後妻さんとなって、ご主人の面倒を見る事になった。
それから時が経って、子供たちは点でに家庭を持ち、年老いた父親の面倒をとても良く見、子供たちや孫たちへの気配りができる麦川さんは、みんなから認められ、麦川さんにとってとても幸せな時が流れたが、年上だったお金持ちのご主人は、麦川さんに看取られて亡くなった。
最後まで親身になって面倒を見てくれた麦川さんに、子供達は揉める事もなく相続をしたが、娘は遠くに嫁いで行き。次男は海外に家族を連れて赴任してしまい。長男も地方に家庭を築いてしまったので、麦川さんとは疎遠になってしまった。
血の繋がりもないので、縁が切れても仕方のない事だと寂しく思った年老いた麦川さんは、姪の久子さんに自分の老後の面倒を、財産を残す約束で見て貰う事にした。
麦川さんの家の近くに家を建ててやり、久子さんは足繁く通っては麦川さんの面倒をみたが、それは麦川さんの満足がいくものではなかった。
それでも姪の二人の子供の大学の資金を出してやり、不景気になり亭主の働きではやっていけなくなると、多少の援助もしてやっていた。
そんな面倒を見ている内に、麦川さんは段々姪夫婦に嫌気が差し始めた。
そんな頃、幼なじみの香川さんのおばあさんに、電話で愚痴をこぼすようになっていて、とうとう姪夫婦とは縁を切ると言い出していたという。
そんな事があったから、香川さんのおばあさんが心配して連絡を取ろうとするのは当たり前で、何度も何度も麦川さんに電話をしても、久子さんが出て
「伯母は具合が悪くて寝込んでいる」
とか
「電話に出れない程に具合が悪くなった」
とか言って誤魔化しているようだったが、とうとう
「認知症が進んで何も解らない状態になったので、施設に入れる事にした」
と言われた。
そんな事を言われたので、当然の事だが香川さんのおばあさんがとても心配して、娘である香川さんのお母さんと、一度だけ様子を見に麦川さんの家に行き、近くに住む久子さんの所へも行ったのだが
「会っても解らない」
の一点張りで、とうとう会わせて貰えず、施設さえも教えては貰えぬ始末だった。