盆 盆の送り 其の三
一時間以上、古関の幼馴染とその仲間達と遊びながら花火を楽しみ、思いの他楽しい時間を過ごした。
それから、一緒にいたバイト仲間を車で送って帰ると、もう零時を過ぎてしまった。
遅くなったので、できるだけ静かに鍵を開けて家の中に入り、歯を磨いて自分の部屋に入る。
「わっ?」
圭吾は、黒い物が素早くベッドの上を動いたので、不覚にも吃驚して声をあげた。
ピシー!
刹那、圭吾は後ろ首筋を鞭で打たれたような衝撃を受けた。
「いて!」
首筋に手をやると、今度は脳天をピシー!
「何だ?」
大慌てて電気を付ける。
「いえもりさま?」
目の前にいえもりさまの白い腹を見たーと思った矢先、いえもりさまの尻尾が目上から下にピシー!
「いえもりさま!」
圭吾が堪り兼ねて大声を出す。
「若さま。方々が起きてしまいます」
「いや!いてぇだろ!」
「申し訳ござりませぬー。若さま、今宵は何方へ?」
「えっ?」
「何方へお越しでござりましたでしょう?」
「ああー。バイト先で知り合った友達の所へーって、なんなんだよ?」
「とても悪しき物を連れてお帰りでござりましたが、私めでも太刀打ちできます弱き物でござりましたので、退治いたしましてござります」
いえもりさまが再び素早く動いて、圭吾の足元に転がるように見える黒い物を、ペロッと飲み込んでしまった。
うえっ!相変わらずグロいー。
「お友達に付いていた物にござります。おうちには異常はござりませなんだでござりますか?」
またまた、ややこしい日本語を使うが慣れてしまった。
「いや別にー。そう言えば……帰りは体が重かったな。疲れている所為だと思ってたんだけどー」
「お母君が此の時期、ご外出は控えるようにとの仰せにござりますのにー。お出かけにおなりになるから」
「いやー。まさか古関にあんな物がついてると思わんから」
「古関様ともうされますか?死に至る程の大事にはなりますまいが、小さいが悪しき物にござります。お友達に付いておれば、事故などに遭うておったかもしれませぬ」
「はあー?よく無事にみんな送り届けられたな……」
「若さま!若さまは大事ござりませぬ。金神様のご加護がござりますから」
「そうなの?」
「左様で。お母君と若さまは、余程の物が参りましょうと、天寿・・だけは全うできまする」
ーその天・寿だけーって、すげ〜意味ありげなんすけどー
「昨日出掛けたでしょ?」
遅く起きて顔を合わせると同時に母親は言った。
「ああ。友達に呼び出された」
「ーで、何も無かった?」
「はあー?なんで?」
「だってお盆だもの、なんか引かれちゃったりしたら怖いじゃん?」
「ひかれる?」
「ほら、何か付いて来たりして」
「げっ!
圭吾は母親の、無意識な勘の鋭さに、今更ながら敬服した。
「あはは、圭ちゃんじゃ、なんか付いても気づかないか?」
「いやいや、ビンゴ」