表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/299

不思議噺 ファックス 其の一

 バイト先の先輩の香川さんと、帰りの電車が一緒になったのは、十一月に入って直ぐの事だった。

「香川さんそういえば、家こっちの方でしたっけ?」

 電車に乗り込むと、圭吾は思い当たって聞いた。

「いや……最近引越したんだよね」

「えっどこっすか?」

「終点の一個手前」

「ええ?かなり田舎っすよね?」

「ああ、畑と森ばかりだ」

「帰り大丈夫っすか?」

「駅から原チャリ乗って十五分位……まあ……いろいろあった所なんだが、遊びに来いよ」

「えっ?いいんすか?」

「なんだったら、今からでもいいぜ。なんかお前に話したくなっちまった」

「家の人に迷惑じゃないっすか?駅に着くのが十一時頃になりますよ」

「あー大丈夫大丈夫。俺一人だから」

 そういえば香川さんは地方の人で、大学がこっちだった為、学校の近くのアパートに一人で暮らしていると、聞いた事があるのを思い出した。

「明日休みだし来いよ」

「それじゃ……」

 圭吾はほとんど考える事も無く、軽い気持ちで同意して、一応心配性の母親にメールを送る。


 ー今日は、バイト先の先輩の所に泊まるわー


 直ぐに母親から


 ーわかった。何か買ってお邪魔しなさいよー


 と、毎度同じ台詞を返してくる。


 とにかく昔の人間だから、誰かのお宅にお邪魔する時は、手土産を持って行くものだと思っている。

 それが、今の若い世代には必要としない事でも、自分が日本人として生きて来た習慣だから

「息子のあんたもやりなさい」

 と、いう事らしい。

 まあ、手土産といっても圭吾のする事だから、コンビニでジュースの大を一本買って行くのが関の山。

 それでもいいからちょっとでも、習慣つけて欲しいらしいのだ。

 だから、駅に着くとコンビニでジュースに菓子、そして明日の朝の食料を買い込んで、駅の近くにある駐輪場の一角に置いてある、香川さんの原チャリに二人乗りして、駅の周りだけにある商店街を走り行くと、アッと言う間に畑と森林ばかりになった。



 畑と森林の中だが、思ったよりも人家が点在する道を走る事十五分ー。

 森林と森林の間の道へ折れて、直ぐ其処だがちょっと遠くに、街灯の灯りと人家の灯りを見て走っていたかと思っていたら、原チャリは予期せぬ所で止まり、そしてパッと灯がついたので、不意を突かれた圭吾は目が眩んだ。

「此処だ」

「はあ?」

「俺んち」

「ええええー?」

 圭吾は唖然として、言葉も無く原チャリの後部に座ったまま、煌々と灯りがついた森林を眺めた。

 乗用車が一台、どうにかこうにか通れる道の両脇には、深々とした森林が広がっていて、先程目にした街灯と人家の灯りは、この先に続く道の突き当たりに見えるのであって、つまり今居る此処は、人家など立ち並ぶ事のない、森林の一画にすぎないわけで……。

 その森林の入り口にセンサーで感知する、とても明るい照明があって、それが圭吾達だけを照らし出して、妙に不思議な感じを与えている。

「まじっすか?」

「マジマジ。この奥にちゃんと家があっから、心配すんなって」

 香川さんはそう言うとカラカワと笑って、圭吾が今だ呆然としながらどうにか降りた原チャリを引いて、林の中に入って行った。

 人を感知して点いた照明は消え、香川さんが原チャリと進む方向に、照明が次々と付いて、香川さんと圭吾の行く手を照らし出した。

 すると直ぐに二階建ての家屋が、その先に現れた。

「まじっすか?」

「マジマジ」

 香川さんはそう言うと、家屋の脇にある屋根付きの駐輪場に原チャリを置いた。

「まじ凄くないっすか?森の中に家建てたんすか?」

「まあな……前の持ち主がこんな所に建てて、何故だか俺にくれたんだ」

「はあ?」

「まじ笑えんだろう?」

 ……笑えるとか、そんな次元じゃない。

 こんな所に家を建てたのも変だが、それを貰ったって……一体どういう事だ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ