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十五夜のあと 神無月と木霊 其の八

いえもりさまを彼方に行かせてから、帰って来る事なく十月になった。

つまり、いえもりさま達が危惧していた〝神無月〟になってしまった……という事だ。


「神無月になったら、どうなるって言ってたっけ?」


出入り口が狭くなって、彼方に続く道も狭くなって、門が閉められて……。

あれ?何だったろう?


気に留めながらも、一日一日が過ぎて行った。

友ちゃんのお見舞いは


「意識が無いから来てもらっても……」


と言われ、原因がはっきりしない以上、友ちゃんの家族は不安が募るばかりだろうと、意識が戻ったら行かせてもらうという事にして、行くのを遠慮した形となっている。

圭吾としてみたら、お見舞いに行って友ちゃんを揺すり起こしたいほどだが、そんな事では起きない事もわかっている。

それでも、妙な疑心暗鬼は捨てて、観音様を信じてさっさと此方に戻って来いと怒鳴りたいが、それを我慢して毎日を過ごしている。

日が経つにつれ、戻れなくなったら友ちゃんが、危ない事になると言っていた事を思い出して、不安になってくる。

毎朝、天井と神棚を探すが、いえもりさまは居ない。

いえもりさまは関係ないが、八つ当たりにいえもりさまを罵倒したりしてしまうが、姿を見せないいえもりさまを恨めしく思ったり、友ちゃんが心配で、やっぱり木霊に怒りの矛先が向く。


そんな毎日を過ごしていたある日。


「いえもりさま?いえもりさまかい?」


遅く目覚めると、天井にいえもりさまが二匹……。


「えっ?どうしちまったんだい?」


〝出入り口〟か〝通じる道〟とやらに支障があって、いえもりさまが二匹に分裂でもしたものかと、慌てて身を起こした。


「これはこれは若主人様、ご無沙汰申しておりました……お久しぶりにございます」

「へっ?」

圭吾が合点がいかず面食らっていると

「若……。今しがた戻ってまいりました。ああ……我が知己にござりまする。以前若にお助け頂いた……」

「えっ?あの知己様か?黒く干からびちまった?」

「……その節は、誠に誠にお世話になりまして……ありがとうございました」

「え〜。もう元のように元気になったんだ。茂木さんは元気っすか?そういやあ結婚したって報道されてたな……今一緒っすか?」

「はあ……未だ療養の身でございますので、我が主人とはまだ……」

「え〜。茂木さんかなり心配してっすよきっと……。元気な姿見せてやらないと」

「は……はあ……」

「若さま……。実は、知己は彼方で身を清めておりましたゆえ、主人様にはお会いできなんだのでござります」

「ああ……療養って〝彼方〟でか……って、友ちゃんどうなったよ?いえもりさま全然報告に来ねえじゃん、まじ心配したじゃねえか」

「申し訳ござりませぬ。がま殿と白鼻芯殿と説得いたしまして、ぬし様が木霊の居場所をお探しくだされましたゆえ、木霊の元にお連れしよくよくと話し合いを、いたして頂いた結果、木霊の説得もありやっと戻る決心を頂いた頃には、最早神無月となっておりました……。幾つかある出口の門が閉められ、どうにか見つけた出口は微かなものと化し、人間の(たましい)が通るには、危ういものとなっておりました……。ところが何と、この知己が木霊の側で療養しておりまして、土地神様はじめ諸々の神々様方に、出入りの自由をお許し頂いておったのでござりまする……」

「この身体が戻りましたらば、少しでも早く主人様の元に戻れるようにと、お許しを頂いておったのでございます。先代様方ともお会いして楽しい日々を過ごしておりましたゆえ、思いの外早く英気を取り戻す事が叶い、先代様方が諸々の神々様方にお願いをして下されていたのです」

「へぇ……って、あのおやじか……」

圭吾は母親を通して見る事ができた、茂木の今は亡きお父さんで、知己様の主人様だった〝おやじ〟を思い出した。

「この知己のお陰様で、兄貴分さまは知己と共に、彼方を出る事が叶ったのでござりまする」

「へっ?」

「何が役立つかわかりませぬな。諸々の神々様のお許しを、先代様が貰うておりました故、兄貴分様もいとも簡単に私と戻って参れました。ご恩のある若主人様のお役に立てたのであれば、私もご先代様も本望にございます」

そう知己さまは言って深々と頭を下げた。

「それでは私めは、我が主人の元に参りまする」

「あ……うん。茂木さんによろしくな」

「はい……」

返事をすると、知己様は取り戻した力であっという間に天井に姿を消して、主人である茂木さんの元に戻って行ってしまった。

「知己よありがとう。一度遊びに行かせてもらうぞ〜」

いえもりさまは天井を見上げてそう叫んだ。

「おう待っておるぞ」

知己さまの声が元気に聞こえた。


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