表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/299

十五夜のあと 神無月と木霊 其の六

「ところで、何用で此方に?」

「がま殿の所に伺いましたが、おいでにならなんだので、ご様子を伺いに此方に……。観音様がいたくご心配されておいでにござります」

「観音様が?」

「さよう。観音様はあの童子をお気に入りゆえ、木霊が望むのであれば……と、今暫く元気でいられるように、彼方への静養をお勧めされたのです。それをあの者が誤解してこのような事となり、いたく心を痛めておいでなのでございます」

「観音様はご存知であられたので?」

「以前より、木霊のお気持ちはご存知であられました。あの者も、ちょくちょくと観音堂に詣っておりましたゆえ、身体は幼くあってもじきに成長いたし、心が通いあうであろう事は察しておられました。しかしながら、木霊は思いの外弱っておりましたゆえ、さほど長くは此方に留まる事は叶わぬと思うておりましたが、山が動き浄化され、もう暫く此方に留まる事が叶いましたゆえ、観音様はお二人を試される事になさいました」

「試す?」

「さよう。今暫く共に生きて行く為、木霊を彼方で静養させ、暫しの間互いを思い合う気持ちが変わらなくば、将来木霊をあの者に差し遣わすおつもりにござります」

「おお、なんと粋なお計らい……」

「……がしかし、そのお気持ちが解りようもない愚かなあの者は、身勝手な思いだけを募らせて、愚かな行為を致すとは、真に人間とはどうしようもない生き物にございます……」

「いやいや……。どうか、観音様のお気持ちを計れぬ愚かさは、木霊を思う気持ちと思うてお許しくだされませ。我が主人は他の人間共とは違い、実に賢く思慮深いお方だが、木霊を思う気持ちが、周りを見えなくさせてしまったのでございましょう」

「それは重々観音様はご承知。なにせ殊の外可愛がっておいでの木霊を、先々あの者に差し遣わすおつもりであるのだから」

「それは我が主人の誉れ。そのお言葉を先に聞いておれば、主人もこのような愚行は、いたさなかったでありましょうに……」

「……で、彼方へは参って来られたか?」

「ぬし様が、土地神様にお願いしてくださるおつもりですが、土地神様がお立ちになられておられるか、またはお許しをくだされるか……。第一主人が戻る気が今はござりませぬ」

「土地神様は最早お立ちになられてしまった。今年はいろいろと寄られて見て行かれるそうだ」

「さようでございますか……」

「しかしながら、今であれば観音様もお力をお貸しくださるおつもりだが、あの者の先走りと思い込には困ったものよ。彼方で木霊と話し合わせるしかないが、さりとて日が余りない」

「さようにございます。彼方への道も門も閉ざされ、出入り出来るはわずか、その道も微かに細くなってしまいまする。人間などが通れようはずもなく……」

「いやいや、はなから通れるものではないのです。それゆえ尚更厄介なのではありませぬか」

「そうであった」

「そうでござりました」

 がま殿といえもりさまは、はたと膝を打って納得した。

「兎に角私は彼方へ参り、観音様のお気持ちをあの者に伝えねばなりません」

「ならば私も共に参り、主人を説得いたします」

「そう願いたい」

 そう言うとがま殿と白鼻芯殿は、スッと窓へ姿を消してしまった。

「いえもりさまも行って来なよ」

 取り残されたいえもりさまを見て、圭吾は言った。

「私めでござりまするか?」

「うん。友ちゃんが心配じゃん?病院なんかに見舞いに行ったって、埒あかないし……」

「さようにござりまするが……」

「兎に角様子見て来て教えてよ」

「はあ……」

「結局、友ちゃんが帰るって言えば、観音様がどうにかしてくれるんだべ?」

「さようにござります。兄貴分さまのお気持ちが本当ならば、暫しの試練を乗り越えられて、晴れて木霊と一緒になれまする」

「木霊と一緒?なんでだよ。友ちゃんは、木霊に幻術か何かで(たぶら)かされてるんだろ?」

「はあ?若さま……」

 いえもりさまは、頓狂な声を発して圭吾を見た。

 その眼差しは、ちょっと呆れたようにも見えたが、当の圭吾が解るはずもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ