表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/299

十五夜のあと 神無月と木霊 其の五

 友ちゃんはどうしても不安になって、木霊が彼方へ向かった後、観音堂の桜の大木へ足繁く通い詰めた。

 その内木霊を思う力が何かに作用したか、その思いが強くて門を開いたのか、はたまた〝彼方〟へ行った木霊の思いとが結び合ってしまったのか、人間の(たましい)が迷い込める〝隙〟など有り様はずもないのに、何故か隙ができてしまった。

 その隙に導かれて、友ちゃんは〝彼方〟へと迷い込んでしまった。

 霊が迷い込んでしまったので、抜け殻となった身体が寝ている状態となってしまったのだ。


「じゃあ、友ちゃんは木霊の所に居るのか?」

「彼方はかなり広うござりますれば、人間如きが探せるわけもござりませぬ。ゆえに探し迷っておいでなのでござりましょう」

「ぬし様が諭され、木霊とよくよく話し合わせるおつもりのようにございますが、今のような頑なお考えのまま、納得なさらずお戻りのお気持ちをお持ち頂けねば、此方へ戻る事が難しくなってしまいます」

「 ああ、神無月ね」

「さようで……。ぬし様も其れを心配なされ、土地神様にお許しを頂けるように、お願いをしてくださるおつもりでございますが、はたしてそれも叶うものか?またもはや土地神様がお立ちになってしまわれていたら、彼処を出る事が難しくなりますし……。神様方が集われておいでの所へお願いに参れば、皆様方に知れる事となり、罰せられるは必至ゆえご相談には参れません」

「まじかぁ……」

 流石の圭吾にも、〝罰せられる〟が天罰や罰当たりに値するくらいは、想像できるようになっている。

「じゃあ、出るのが難しい期間って、神無月の十月一杯のひと月か?」

「さようで」

「この時期が過ぎれば出て来れんの?」

「我が主人さまがご納得なされば、ぬし様や観音様のお力で、此方に引き戻す事は可能かと……がしかし……」

「はあ?なんかあんのかよ?」

「人間が彼方へ長く留まれば、浄化されて人間として戻る事は叶わなくなります」

「ど……どういう意味だよ?」

「つまりもはや人間には戻れぬという事にござりまする」

「はあ?」

「じゃあ、友ちゃんは?」

(たましい)は浄化され、残されし身体は朽ち果てるまで眠り続けます」

「まじかぁ……。じゃ、じゃあ、友ちゃんに心を入れ替えてもらわないとだめじゃん。木霊なんて諦めて、此方に戻ってもらわないと……」

「木霊なんて……とは、聞き流せませぬな」

「うわー」

 声のする方に顔を向けると、圭吾はベットから驚いて滑り落ちた。

「お久しぶりにございます。家守(いえまも)りの若主人様」

 深々と頭を垂れて、観音堂の白鼻芯が礼儀正しく挨拶をした。

「おお、これはこれは、観音様の白鼻芯殿」

 異口同音で、いえもりさまとがま殿が言った。

「木霊は身も心も桜の大木の精として恥じぬ程に、それはそれは美しいものにございます。たかが人間が心惑わすのは当然の事。それどころか、木霊が心を寄せた事の方が、如何にありがたい事か、人間に解れと言うても無駄というものか」

「……白鼻芯殿口がすぎますぞ」

 がま殿に(たしな)められた白鼻芯殿は、少し肩をすぼめて再び頭を垂れた。

「これは私ともあろうものが……」

「いえいえ、我が若主(わかあるじ)は多少我らの世界の事に疎うござりまする。何卒その旨をお含みの上、失礼をお許しくだされませ」

 いえもりさまは怒るどころかしたり顔で、圭吾の失言を詫びていて、ちょっとムカつくが、確かに此方の世界もままならないのに、彼方の世界を解るはずもないから、言われるままに仕方ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ