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十五夜のあと 神無月と木霊 其の四

 居間に行くと母親が血相を変えて友ちゃんの事を言った。

 どうやら回覧板を持って来たお隣さんから、圭吾が仲良くしているのを知っているので、話を聞いたようだ。

「電話して聞くのもなんだし……」

 母親もかなり殊勝な事を言う。

「明日にでも様子を聞いてくるわ。できれば圭吾がお見舞いに行けばいいし……」


 意識が無いのにお見舞いに行ってもね……。


 ……とも思ったが、詳しい事情を話せるわけもなく、

 結局様子を聞いてから、お見舞いに行くーという事で話は終わったが、そうそう食事が喉を通るわけもなく、と言いつつもしっかりハンバーグとめしを一膳完食して、再び部屋に戻ると、かなり意気消沈したがま殿が来ていた。


「ぬし様……なんだって?」

「それが、ぬし様もご存知で、兄貴分さまをお探しくだされておりました」

「えっ?」

「彼方でぬし様が早々に戻る手配を……とお考えでございましたが、いかようにも兄貴分さまが、お戻りになる気がないのだそうにござりまする」

「は……はあ?」

「実は……」

 いえもりさまの横でしお垂れていたがま殿が、声にも力無く言うには、あの観音堂の花見をした後、最も美しい花を咲かせる桜の大木……。木霊と友ちゃんは、懐かしい時間を幾度となく過ごした。

 その内近くの公園の裏山が動き、汚れを流し清められたお陰で、気が弱まり精気を無くし、木霊としての力が尽きてきいた木霊が、本来の力と姿を取り戻し、 何時しか二人は互いを思いやるようになった。

 その以前より、木霊にとっても友ちゃんにとっても、大事な存在であったから、あの花見で再び会った二人は、互いに惹かれるところがあったのだろう。

「いやいやちょっと待てや。友ちゃんが桜の木に?有りえねえだろう?なんか術でも使ったんじゃね?……幻術みてえなの。それで友ちゃんの事騙して精気を吸い取る……。そんな感じじゃね?だから少しやつれてたんだわ」

「いえいえ若主人さま。木霊はそのような事はいたしませぬ」

「はあ?幽霊も妖怪も、人間の精気を吸い取って生きてんだろ?」

「ぷっ、若さま、有りえねえことにござりまする」

 いえもりさまが吹き出して言った。

「はあ?雪女は精気を吸い取って凍え殺すし、牡丹灯籠だって……」

 余り話を知らない圭吾だが、今年の夏の〝怖い話し〟で学習したばかりだから知っている。

「いえいえ若さま。それは勝手に人間が拵えた作り噺にござりまする。雪女さまが人間の精気を吸い取り凍え殺すだの、お露さまが恋しいお方をとり殺すだの……全くの嘘八百にござりまする。考えるだけで可笑しく、へそで茶を沸かしてしまいまする」

「はあ?」

「若主人さま、私共は決してそのような事はいたしませぬ。第一我々がお側で従うておりましても、我が主人も若主人さまも、至ってご健康でおられます」

「ふむ。確かにそーだわ」

「ご理解頂けて幸いにございます」

「……じゃ、なんで友ちゃんは眠ったままなんだ?」

「……ゆえに、(たましい)が彼方へ行っているからにござりまする」

「……じゃ、なんで霊が彼方に行っちゃったんだよ」

「木霊が観音様の使いで、彼方へ参る事になったからでございます」

「木霊が?」


 観音様は、精気を取り戻し元気になった木霊だが、気の巡りが悪くなる一方の此方に長く居る木霊を心配し、此処は英気を養わさせ彼方で清めさせようとお考えになった。

 木霊も友ちゃんとずっと一緒に居られるようにと、暫く彼方で英気を養う事にした。そうなると暫く会う事は叶わないので、木霊はその旨を友ちゃんに伝えた。

 ところが、圭吾と同様に先入観のある友ちゃんは、観音様のお考えを誤解してしまった。

 二人の仲を反対していると思い込んでしまったのだ。

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