盆 盆の送り 其の二
父親が定時に帰って来た。
母親に言われた通りつゆを温め、そうめんとてんぷらを食べて、後片付けをしていると電話が鳴った。
「なに?」
バイトで一緒の古関からだった。
「今日休みだろ?」
「ああー」
「みんな集まっているんだけど、ちょっと来ないか?」
「今から?」
「ああー花火しようって」
「……」
考えていると
「飯食って無かったら鍋の残りあるし」
「此の暑いのに鍋かよ?」
「クーラーガンガンかけて食うのが好きなんだよ」
「なるほどー。わかった、これから行くわ。いや、めし食ったから」
「何処か行くのか?」
会話が切れるのを待って、父親が聞いてきた。
「バイト先の友達んち行って来るわ」
「運転気をつけろー」
「わかってるって」
圭吾は会話もそこそこに玄関を出た。
父親とは思春期の頃から、一般的な父と息子の関係だ。
際立って仲が悪い訳では無いが、頗る良好な訳では無い。
仲間達から比べれば、圭吾など反抗期でもないらしいが、父親はそうは思わないらしく、ことごとく反抗されていると思っている。
ぶつかり合ったりもしたが、父親も余り言っても効かない事を悟ったのか、以前より言わなくなったし、圭吾も父親の言葉に反応するよりも、聞かない術を覚えた。
お盆の道路は空いている。
昼と違い夜ともなれば車の数がぐっと減っていて、圭吾の想像以上に早く着いた。
LINEでメッセージを送っていたので、古関達は家から出て待っていた。
「直ぐ側に川があるから其処でやろう。車庫に入れていいよ」
「でもー?」
「親は車で栃木の田舎。姉がもうじき帰って来るけど、車は入れないから」
「ああー」
圭吾が車庫入れしている間に、古関は律儀にもバケツに水を張って持ち上げた。
「バケツに水入れて持ってくのか?」
「当たり前だろ?じょーしきよ、常識。花火をする時は側に水置く。そして持ち帰る。此の辺の奴はみんなそうするぜ。ーしない奴は他所もんよ」
「なるほどー」
圭吾はちょっと可笑しくなった。
母親が言うには、圭吾の友達は頗る常識人だという。
ちょっとしたやんちゃをする仲間だが、非常識な事はしないというのだ。
おもに高校時代迄の仲間に言った台詞だが、古関はその仲間内に入るらしい。
川縁に着くと、花火ができる場所があった。
代々此の辺りの子供達が花火をしてできた場所のようで、草が生えている川縁の数カ所に、草が生えていない黒土の見える所が点々とあり、その一角に古関の知り合いらしき奴らが先に花火をやっていた。
「おっ古関!」
「おう」
古関が其処に歩み寄るから、圭吾達も歩み寄る事になる。
「俺らも今来た所ー」
愛想よく笑うちょっと小柄な男の足元には、水の入ったバケツが置いてあった。
「ああーバケツ?常識だよな?」
「じょーしきよ、常識」
小柄な男も仲間に指摘されたのだろう。圭吾達が何も言わずに、それでもバケツに目をやっていると、古関と同じ事を言って笑った。
「此処はロケットもおっけだから、ルールは守らにゃいかんしょ?」
「そうそう、常識、常識」
ヒューと高い音を立ててロケット花火が飛んで行った。次にパンパンという音を立て打ち上げ花火が上がった。
「おおー!すげえ」
歓声が上がった。
やっばりこれはちゃんとルールを守る価値はある。
花火をやっていいか否か罪悪感を持って打ち上げるより、住民に認知されて打ち上げる方が、喜びの声も心置きなくできて楽しめるというものだ。