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盆の過ぎ 流れ家守(いえもり) 其の終

 どうやら両親は、本当の所まだ行き着くところまではいっていなかったようで、家守(いえまも)り夫婦が居なくなると、騒ぎの方も落ち着いた。

 圭吾もそれなりに成長しているので、夫婦の間の事はかなり微妙なようだが、兎に角今回は事なきを得たという事か。



 少し経っていえもりさまは彼方から帰って来た。

 流石に家守り夫婦は一緒ではなかった。


「流石に家守り夫婦は一緒じゃなかったな」

「当たり前にござりまする。あのようなもの共が、我が家におるなどあり得ませぬ」

「まぁ、居られたら困るけどな」

「私めが見つけるのが、あと少し遅かったら……と考えますれば、一大事にござりました」

「いやいや、でかした」

「恐縮にござりまする」

 いえもりさまは真顔でそう言うと、柔らかい体をくねらせて、へたりと伏せた。

「あいつらまだ彼方にいんの?」

「いえ、彼方で体を浄化し悪しきものを全て取り除きましたゆえ、もはや何処ぞへ行こうとも、何事もござりませぬが、元に居りました床屋に戻る事になりました」

「床屋か?」

「あのもの共は、良き床屋夫婦の優しさに包まれ、幸せに長く暮らせた為に夫婦で、家守りとなれましてござりまする。ゆえに戻るが一番かと……。もはや、主人は悲しみより立ち直り、娘と楽しく仕事をしておりまする。早く戻り娘に婿を取り、尚一層に家の繁栄を見守らねばなりませぬ」

「なるほどー」


 家守り夫婦は、とても大事にされて幸せに暮らせた為に、家守にしては長い年月を生きる事ができた。

 その為に、家の事よりもあの優しい夫婦の幸せを願うようになり、夫婦の幸せが家の繁栄となって家守りの役目を果たす事ができた。

 だが、余りに主人夫婦に愛情を持ちすぎた為に、本来護らねばならない、家守りの役目以上に、夫婦に対する感情が強くなりすぎてしまった。

 余りに嘆き悲しむ主人の姿を見ていられなかったのもあるが、優しい夫が亡くなったのが、家守り夫婦にとっても、殊の外悲しい事だったのだ。

 悲しみを抱えていた矢先に、主人達とはまるで異なる者達の悪行が、家守り夫婦には悲しみに対するはけ口として憎悪を増させた。

 その者達の悪行が邪気となって、家守り夫婦に染み込んでいき、災いをもたらし離別させるものとなった。

 彼方にいき、染み込んだ悪と邪気を清め祓った家守り夫婦は、再び家守りとして床屋に帰ってみる事とした。

 散々醜き者達の悪を見て来た家守り夫婦は、優しさに溢れていた床屋を出てしまった事を、激しく後悔したが、もはや戻れる身ではなくなった我が身を悔やんでいたから、もうどんな事があっても、優しい主人達が残したこの家を護って行こうと誓ったのだ。

 久々に帰ると、さほど長い年月ではなかったが、主人は以前のように優しく、そしてとても元気になっていた。

 娘は母親よりも腕がよく、そして流行りのものも上手にするので、以前にも増して若い者が訪れるようになっていた。

 ただ、暫くの間家守り夫婦が居なかったので、主人の母親が死に、その介護に主人も追われる日々を過ごしていた。

 また娘にも息子にも良縁が訪れておらず、家族は寂しいものになっていた。

 今まで許せぬ悪行の者達とはいえ、人を別れさせてきたが、今度はこの家の為主人の為にも、最高の良縁を見つけねばならない。

 家守り夫婦は忙しい日々を過ごさねばならなくなったが、それはとても嬉しい事だった。


「今はご縁の神様にお目もじ頂いたりと、あのもの達も忙しくしておりまする」

「まぁ……別れさせるよか、良縁を探して歩く方が、楽しいし幸せだろうな?」

「さようにござります」



「そういえば、うちの家守って、右向いの松田さんの所から来たのよ」

 騒ぎに騒いでいた母親が、近頃では憑き物が落ちたようにおとなしくなって言った。

「なんだよ急に?」

「だって不思議だなって思い当たったのよ。確かに松田さんの所に家守居たのよ。私あんまり好きくないから、覚えてんの。そしたらうちで見かけ出したじゃない?あの家守うちに来たんだわ」

「えっ?」

「今居ないみたいだもの」

「ふーんーって、なんで今頃?」

「あそこのうち、単身赴任してもう長い事ご主人帰って来てないじゃない?だけど、一回ご主人らしき人見かけたのよね、去年?一昨年?……でもその時に帰って来なかったのよ。きっと別れたのね」


 ーなるほどー自分が離婚の一歩手前までいって思い出した訳か?


「そういえば、ここ数年で別れた話し聞くの多いのよ」


 ーいやいや、それはあいつらの所為だからー


「そして最近、復縁した話しを三人も聞いたわよ」

「復縁?」

「別れたんだけど、やっぱりやり直すとか、出て行ったんだけど戻って来たとか……」

「へえ?」

「なんか変……」

「……まぁ、確かに」


 それは、あの家守り夫婦があれから一度いえもりさまに挨拶に来た時に、ちょっと休んだ家の者が復縁しているらしく、もう来ることはないから、復縁の話もないだろう。

 まあ何にしても、変な家守りがいたものだ。

 うちのいえもりさまよりもー。

最後までお読み頂きありがとうございました。

ほんの少しでも興味をお持ち頂き、読んでくださるだけで倖せです。

我が家の〝外のもの〟家守達の姿が見られなくなってしまいました。

もしかしたら、流れ流れて何処かもっと環境のいい場所に行ってしまったのでしょうか?

いろいろ不満はあるかもしれないけど、「帰って来て〜」

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