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盆の過ぎ 流れ家守(いえもり) 其の五

 その後も家を転々とするが、どこも見た目はよいが住みつくと穏やかな家はなかった。

 たまたまそういう家を選んでしまうのか、人というものがそういうものなのかー。

 とにかく、穏やかではない家に行っては、結局別れる事にしてしまうー。

 気がついた時には、何軒もの家庭を壊してしまっていた。

 そして去年、家守り夫婦は圭吾の家の右斜め前の家の窓に張り付いていた。

それをバイト帰りの圭吾に幾度か目撃されていたが、結局のところそこの家の主人が単身赴任で地方に行った事が原因で、夫婦別れしてしまった。

 とどのつまり、家守(いえまも)り夫婦は上手くいっていない夫婦に、引導を渡してしまうようになっていたのだ。


 散々、家守りである身であるにもかかわらず、家庭を壊して圭吾の家にたどり着いた。

 ところが圭吾の家には〝いえもりさま〟が居たので、居つくつもりは毛頭ないが、いろいろと悪いものを発したり吸収したりしてきたので、家守りの嫁が体を壊してしまった。

 こっそり密かに体を癒そうと隠れていたが、とうとう見つかってとっ捕まってしまった。

 家守りでありながら、もはや醸し出すものが異様なものになっていたので、いえもりさまは仰天して、今までの経緯を聞いた。

 すると家守り夫婦は涙ながらに事の全てを話して、どうか助けて欲しいといえもりさまに泣きついた。

 いえもりさまも不憫には思ったものの、然し乍ら家守りとしてはあってはならぬ所業だ。散々家守(いえまも)りについての在り方を聞かされていた所に、圭吾がかなりの凹みようで部屋に入って来たのだった。



 圭吾が家守り夫妻の今までの経緯を聞いていると、慌てていえもりさまが部屋に戻ってきた。

 そろそろ辺りも、薄明るくなろうとしていた。

「若!兎に角此れを居間にお貼りくださりませ」

 いえもりさまは、口にくわえていた黄色い長方形のお札を、圭吾に差し出して言った。

「お札かい?」

「さようにござりまする。兎にも角にも若さまのお家の一大事にござりますれば、金神様に頂いておりましたお札を使い浄化いたし、このもの達は彼方へ連れて参り身を清めさせねばなりませぬ」

「……このお札で、両親の離婚って奴ぁなくなんの?」

「このもの達が持ちましたる邪気によるものならば、二階の各部屋にも貼って参りましたゆえ、直ぐにこの話は立ち消えいたしまするが、このもの達とは関係なく、元々根にあるものならばどうにかせねばなりませぬ。その折には、金神様にご相談をいたさねば、いかようにもならぬかと」

「まじか……」

「と、兎に角直ぐにお札をお貼りくださりませ」

「わ、わかった」

「私めは、暫しこのもの達と彼方に参って参りまする」

「おう……」

 そう言うと、圭吾は急いで居間の柱の天井近くにお札を張り付けた。

 すると、黄色く派手なお札は、見る見るうちに透明になって柱を這って、天井に貼り付いた。


「すげえ。まじすげえ」


 此れは利き目がありそうだとちょっと期待した。

 流石は〝七殺〟と恐れられている金神様から頂いたお札だ。

 母親は七年間子どもができない息子夫婦を思いやり、父親の母親……つまり圭吾の曽祖母が、金神様を心から信仰して、通いつめてお願いし続けて、やっと授かった子だから、金神様の申し子といえなくはないようで、母親に危害が及ぶ事があれば守ってくれている。

 今回の事は、金神様の領域ではなさそうにも思えるが、いえもりさまが相談すれば、直に力を貸してくれる事は無くとも、何らかの方法くらい考えてくれるかもしれない。

 あのタブレット好きな、ご容姿が定かでない金神様に、久しぶりにお会いしたい気もする。


 早朝起きて来た父親は、一言も発する事なく不機嫌に家を出て行ったが、それは何時も会社に行く時の格好と変わりなく、家を出て行くものではなかった。


 母親も流石に今朝は、圭吾に無駄口を叩く元気もないようで、こんなに早くに起きている事も気にかける様子もなく、何も手につかないのか、何をするわけでもないのに家を歩き回っている。


 夕方父親はやはり無愛想な様子で、それでも何時もと変わらない時間に帰って来て、何時ものように食卓についた。

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