盆の過ぎ 流れ家守(いえもり) 其の四
暫く借家に住みついていた家守り夫婦は、その借家の持ち主の家に住みつく事にした。
この借家の持ち主は、地元の大地主で平家の借家を数十件と所有していた。
所がある日、主人……っといっても、もういい年の老人だが、その主人が病気で倒れて、寝たきりではないが、半身不随となりとても不自由な身となってしまった。
それまでは、嫁に行かずに両親と暮らしていた娘が、父親を手伝っていろいろと借家の管理をやっていたが、父親が倒れたと知ると、それまで別の所に家を建てて貰い生活を別にして、会社勤めをしていた兄夫婦が、いろいろと口を挟んでくるようになってきた。
息子に弱い母親は兄の言いなりになり、とうとう父親が反対をするのを無視して、借家の大半を沢山貸せるようなマンションにする事にしてしまい、会社を辞めて全ての管理をするようになった。
妹は体が不自由な父親の面倒を見させられ、マンションやら借家やらの収入の一部を、生活費としてくれるだけで、義姉は無論の事兄すらも両親の面倒を見る事はなかった。
暫く娘に面倒を見て貰っていた父親は、少しづつ回復へと向かい、父娘で散歩する姿をよく見かけるようになって、その頃住みつくようになった家守り夫婦も安堵したが、再び同じ病気の発作を起こして、主人は亡くなってしまった。
父親の回復を殊の外喜んでいた娘は、余りにもショックを受けて、それはとても悲しんだ。
そんな親思いの妹に兄嫁は、世話をする父親が居なくなったのだから、見合いでもしてさっさと家を出るようにと言った。
なかなか縁付かずに家に居る娘を気がかりとしていた母親も、兄のいう事に同調し、一周忌も待たずに見合いをさせ、三回忌も待たずに嫁に出してしまった。
これには、流石に親戚縁者からいろいろ言われたが、兄夫婦は気に止める事もなく、妹を追い出して自分達が家に入り込んでしまった。
息子と同居ができてとても喜んでいた母親だったが、口の達者な嫁とは上手くいくはずもなく、日増しに揉める事が多くなってしまった。
すると息子は嫁の肩を持ち、毎回母親を責めるようになった。
母親は嫁に出してしまった娘を思い後悔したが、もはやどうする事も出来ずに、毎日近所の知り合いの所に行っては、嫁の悪口を言って歩くようになり、その事を息子に責められ再び嫁と揉める毎日だ。
そして、家守り夫婦が住みついた家に入り込んで半年、当然の事だが兄夫婦の仲が悪くなった。
原因は、金を手にした兄が彼方此方と浮気をしている事が、兄嫁にばれてしまったのだ。
元々大地主の息子という事で、若い頃からもてていたから、ちょこちょこと浮気はしていたのだが、上手くばれずにきたが、金も困らない今では、どうせ知られた所で別れる事などできないだろうと、高を括っていたのだろう、人目を憚らず派手になってしまったから、嫁にばれないわけもない。
それに姑とのいざこざも我慢ができなくなっていたから、子どももいない事だし、慰謝料をたんまりと吹っかけて、いとも簡単に家を出て行ってしまった。
次から次と家に女性を入れるが、結局結婚まで行かずに出て行かれてしまい、それを母親が言って歩くから、近所の噂となって広がってしまった。
結局、慰謝料やら女性に貢いだりで、幾つもあった借家やマンションを売る羽目になって、立派で大きな家は、ちょっと呆けかけた老婆としょぼくれた長男の二人だけとなり、全く構う事もなくなってどんどん寂れてしまった。
「全く愚かな息子よ。結局のところ身代をくいつぶしてしまうわ……」
家守り夫婦はそう言って呆れた。