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盆の過ぎ 流れ家守(いえもり) 其の二

 駅の上り方面が一丁目にあたり、ずっとずっと線路沿いに行くと、踏み切り近くに床屋がある。

 線路沿いの踏み切りの近くといっても、かなり駅からは遠くなる為、住宅街の一角に細々と存在するような感じの床屋だ。

 その床屋の近くに、小学校の頃仲の良い友達がいて、よく遊びに行っていたから知っている。

 小さいが小綺麗なその床屋は、夕方少し暗くなって、友達の家から帰る時に見ると、外の木が茂っている為か、必ずといっていいように、大きな家守が店の中の明かりに映し出されて、はっきりとガラスに張り付いている事が解った。

 最初は不気味なその生き物だったが、まだ生きていたばあちゃんに言うと

「それは〝いえもりさま〟だわ。家を守るって言って、それはそれは縁起のいい生き物だから、お店の人も大事にしているだろうから、そっとしておいてやるんだよ」

 と教えてくれた。

 その床屋は、ばあちゃんがもう少し若い頃は、今にも潰れそうだったようだが、圭吾が〝いえもりさま〟(ばあちゃんに教えて貰ったので)を見かけた時には、小さいが新しく建てた感じの、綺麗な店で潰れそうとは、到底思えないものだった。

 それから高校卒業の頃通りかかると、敷地も大きくなってこんな所(駅から遠いという意味)にしては、かなり大きな床屋というより理髪店的な、洒落た感じになっていて、ばあちゃんのいう事は本当だったんだと納得した。

 〝いえもりさま〟に守られていたから、お店が順調で大きくなったのだと、そう納得したのだ。



 流れ家守(いえまも)りの夫婦はその床屋に住みついて、ガラスに張り付いていたあの家守だ。

 床屋の主人は、会社をリストラされた夫を抱え、祖父が営んでいた床屋を譲り受けて、細々と営業していたまだ若い女性だったが、花が好きだったようで、祖父の代では全く植えていなかった花や木を店の周りに植えたので、自然と住みついた家守達だ。

 窓の側に植えてくれた一本の木が、家守達の快適な住処を作ってくれ、家守の姿を見ると消毒などもしないように、気を使ってくれる程の優しい夫婦だった。

 そんな気の良い夫だったが、なかなか良い仕事には恵まれなかった。

 それでも妻は文句も言わずに黙々と仕事をこなし、お金には不自由をしていたが、とても仲の良い夫婦だった。

 月日は流れ、居心地の良い住処を与えて貰った家守夫婦に子供が増えた頃、床屋の夫婦にも子供が授かり、夫にまたとない程のいい仕事が見つかった。

 お金に心配もなくなり、妻は安心して男の子と女の子の二人の子供を育て、子育てに手もかからなくなった頃、父親が死んでしまい一人寂しくなった母親を呼び寄せて、子供の世話を頼んで再び店を始めた。

 夫の仕事も順調で、妻の床屋も以前より客が増え、家族も増えてとても幸せな日々が続いた。

 窓の外では、家守夫婦の子孫も増えていき、子孫が増えれば増えるほど、店は大きく立派に綺麗になっていった。

 息子はいい就職先を見つけて、地方に行ってしまったが、娘が理容師になって母子で店をするようになった。

 気がつくと家守夫婦は、家守(いえまも)り夫婦となって、この家を護っていたのだった。

 護っているのだと思っていたのだがー。

 ある日、気の良い夫が急に亡くなった。

 年老いた義母よりも早くに、病気で亡くなってしまったのだ。

 とても仲の良かった夫婦だった為、妻の嘆きはそれは酷いものだった。

 家守り夫婦が見ていられない程に、それはそれは悲しんだ。悲しんで悲しんで……とうとう寝込んでしまう程だった。

 家守りとして、とても恥じ入るばかりだったが、妻が元気を取り戻すのを見届けて、家守り夫婦はその家を出る事にした。

 家守りとして護り切れなかった事よりも、大事にして貰った夫婦を護り切れなかった事の切なさが、悲しみ嘆く残された妻を、長く生き延びて見ている我が身が辛かったのだ。

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