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不思議噺 すずころ 其の終

 鈴虫が居なくなる十一月ー。

 保坂の家の工事が始まる。



 保坂の家には、鈴虫の不思議な事が起こったが、我が家の鈴虫は全く変わる所はなく、ただ毎年のごとく涼やかというのではなく、かなり五月蠅い感じに鳴いている。

 ……だが、保坂のお陰で恩恵を受けたのは、我が家の鈴虫も血が濃くなってきていて、毎年四、五匹の雄の鈴虫を入れた位では、もはやヤバい状態になっていたので、保坂の許可を得て草叢の鈴虫と、我が家の鈴虫を半分くらい入れ替えさせて頂いた。

 また孵り過ぎて困った時には、保坂の所で引き受けてもらえる約束を取り付けた。

 これには、ばあちゃんが孵し上手だった為に、やはり十数年と鈴虫の行き場に困り続けてきた母親を、〝保坂様々で足を向けて眠れない〟いう程に喜ばせた。


「お前らは、何か言う事はないのか?」


 圭吾がちょっと大きめな、プラスチックの虫かごの中で羽を震わせる鈴虫に言ったが、当然の事ながら答える訳もなく、ただ無心に羽を鳴らしている。

 ……よく見ると、保坂のお兄さんの言う通り、後ろから見ると襟巻きトカゲに見えなくも無いー。

 なんだか、慣れはしたものの不気味といってしまえば、不気味だー。

 小さい頃からいて当たり前の存在だが、可愛いとは思わないし、面倒など見た覚えもない。

 幼稚園の時の友達に貰ってきたというが、そいつの事すら覚えていない。

 死んだばあちゃんが、上手に孵す事ができたから今に至るが。

 病みついたばあちゃんには、ずっと鳴き声を聞かせたかった母親は、奇形の鈴虫に気がついた頃から、雄を数匹買ってきては入れ、毎年の面倒もばあちゃんから引き継ぎ、ばあちゃんが亡くなる年まで鈴虫の声を聞かせる事ができた。

 今でも鈴虫は毎年孵化して、毎年恒例となった鈴虫の音色に酔いしれるわけだが、年を追うごとに形が違うものの姿が目につくようになってきていて、母親はそれがずっと気になっていたようだ。

 毎年聞き慣れてしまった音色だが、きっと聞けなくなった時の喪失感は大きいと思う。

 当たり前のように側にいてくれた、ばあちゃんが突如として、居なくなってしまった時のように……。


「凄えな〝鈴転(すずころ)〟」


 偶然友ちゃんと出会って、保坂の所の鈴転(すずころ)の話をすると、友ちゃんはかなり関心して言った。


「確かけいちゃんの所にも鈴虫いたよね?」

「まあ……うちのは枕元に立つ気もなさそうだ」

「ははは……立っててもけいちゃんなら気付かなそうだ」

「まあ……言えっけど。うちのも帰りたがってんのかな?ちょっと、最近考えるんだよね」

「もし何かあったら、いえもりさま経由で知らせてくるよ。けいちゃんじゃ、枕元に立っても意味なさそうだからな」

「そうだ!いえもりさまが居たっけ?……っか、なんだか友ちゃん、ちょっと痩せたんじゃね?」

「今年も暑いからね……夏バテ」

「確かにこの暑さじゃ食欲は落ちるわ」

「まあ……ね」

「それでも食わなきゃ駄目だぜ」

「解ってるって」

 友ちゃんは力なく笑った。

 かなりまいっている様子だが、今年の暑さは去年以上だから、熱中症の話しは毎日のように耳にする。



 暑さ寒さも彼岸までー。

 彼岸を過ぎ十一月に入ると、保坂の家は順調に工事が始まった。


最後までお読み頂き、ありがとうございました。

我が家の鈴虫も数年を過ぎ、そろそろ心配な状態です。

不思議な事に、今年は外では聞けなかった鈴虫の声を聞く事が出来ます。

これは、うちの鈴虫もそろそろ外へ出て行く時期と、すずころが言っているのかな?と考えています。


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