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花見の頃 夜桜の宴 其の終

 暫くして……。

 ゲリラ豪雨でもなく地震でもなく……。

 ただ本当に自然にというか普通にというか、当たり前のように稲荷大明神様の祠の裏の斜面が崩壊した。

 祠は土砂に呑まれて崩れ去ったが、木の鳥居が崩れ落ちた土砂から、ほんの微かに姿を覗かせていた。

 幸いというべきか、昼間の事であった為住宅には人が居ず、土砂が流れ込んだ家も崩壊した家もあったが、その数は大した事はなく、眷属様のいう通り大事にはならなかった。

 ただ、少し離れた場所の公園の池は濁りを見せ、生き物の姿はなかった。


「想像していた以上だったな」

 友ちゃんは、暫くの間立ち入り禁止となった、公園近く一帯を見渡せる道路脇に車を止めて、傍の圭吾に言った。

 遠目に見えるその様子は、稲荷大明神様の祠の左手の先の、荒れ果てた斜面が剥き出しだった森林の、その上の土が滑って流れ落ちた感じで、災害と いうのではなく、極々当然なるべくしてなった、自然の摂理のひとつであるような、そんな印象を圭吾達に与えるような、そんな土砂崩れだった。

「祠が流されても、並びの家の一階あたり位までしか、土砂は入り込まないと思ってたし、崩壊する家はないと読んでたが、全壊とまではいかないが、壊れた家があるとはね……」

「大明神様の力が弱かったって事?」

「いや、たぶん本当の自然の威力っていうのは、俺らが想像する以上だって事だろうなぁ」

「じゃあ、眷属様達の想定内なのか?」

「たぶん……」

「マジか……。凄えな」

 家々に流れ込んだ土砂は、確かに眷属様が言っていたように、山が要らぬ物を吐き出した様に見えた。

「あれをいえもりさま達が見ると、黒くて〝悪しきもの〟ってやつになるんだろうな……」

「はは……けいちゃんも解ってきてるね」

「フッ!きてるきてる」

「ははは」

 友ちゃんが妙に楽しそうに笑ったので、圭吾もつられて笑った。

 被害に遭った人達を思うと、きっと不謹慎だったかもしれないけれどー。



 数日後、圭吾達住民にとって、かなり大きな問題が明らかになった。

 以前から噂に噂を呼んでいた、あの〝超絶最強幸運〟の持ち主の金持ち地主の病院の裏山から、〝決して埋めてはならない〟物が出できた。それも乱雑に簡単にビニール袋に入れただけで、病院で使った注射針や注射器などの器具や薬品までが埋められていたが、斜面崩壊した大明神様の祠から、かなり離れた所だというのに、病院の裏の大地も滑ったのか、その近くには滑り落ちた土砂など無いにも関わらず、埋めて隠されていた筈の物が、少し離れた場所の広範囲に渡って剥き出しになって現れた。

 最初は誰も、なんであるかも察しがつかなかったが、噂が噂を呼んでいた程に知れ渡っていた事だったので、直ぐに住人達の知れる事となった。

 そんな事が明るみになってしまったので、それでなくても、今は昔程の患者数もなく、それどころか〝あの病院に行っては、助かる者も助からない〟と陰口を叩かれていたので、アッと言う間に病院は成り立たなくなってしまった。

 それこそこれも噂の域だが、〝不当廃棄物〟で、行政が介入して病院は辞めざるおえなくなったーとか、院長であるあの地主が、警察に連行されて裁判を受ける事になったーとか。夜逃げしたーとか。

 定かではない噂だけが驚くほどの速さで広がり、そして病院は閉まってやっていないという話だ。

 元々圭吾の家は、其処の病院にかかった事が無いので、わざわざ真偽を確かめに、病院を見に行く質でもないから、本当の事は解らない。

 ただ、いえもりさまが言っていた通り、護のつちのこ様が居なくなってしまった以上、地主一族の栄華はこれまでという事だけは、本当だろう。


 そしてもうひとつ、圭吾の頭の中で明らかになった事がある。

 圭吾がずっと、観音堂だと信じていた、昔見た事のある祠は、稲荷大明神様の祠だった。

 人間の記憶というのは……いや……圭吾の記憶と言うべきだろうか?

 ある日唐突に、確かな記憶が浮かび上がってくるものだ……と、圭吾は知った。

 ほんの数時間前迄、観音堂だと信じきっていた記憶の中の祠が、眠って目覚めると確かな記憶として

「あれは稲荷大明神様の祠だった」

 と確信を持ち、様々なそれに対する立証行為を、頭の中で繰り返し〝間違いは無い〟と、またまた確信する。

「まじか……まじか……」

 そして独りで納得する。


  そんな事があったからか、或る日圭吾が珍しく、机の上に座るいえもりさまに、神妙に話しかけた。

「いえもりさま、いえもりさまが知っている事、いろいろ教えてよ」

「わ……若……何をもうされておいでにござります?」

 いえもりさまはびっくりして、圭吾をまじまじと見ながらたじろいだ。

「いや……だから……いえもりさまが知っている事ぐらい、俺様も知っとこうと思ってさ」

「……?……?もうされている意味が……」

「はあ?俺様もいえもりさまが知っている事ぐらい、知りたいって言ってんだよ」

「はあ……知って如何なされるので?」

「如何……って……いろいろ知っておいたほうがいいかと……」

「それにこした事はござりませぬが……」

「……だろ?だろ?」

「……では、何をお教えすればよろしいのでござりまするか?」

「う……ん。し……自然の……いえもりさま類の……ん?神様もか?」

「若……」

 いえもりさまは、ぎょろぎょろした目を圭吾にしっかりと向けて言った。

「若は今のままが宜しかろうかと……」

「はあ?またまた萎えるわぁ。人が折角やる気でいるのに」

「いえいえ、若は今のまま、少しずつお解りいただければよろしいのでござります」

「はあ?」

「何事にも無理をなさらぬ、その自然なお姿が、私めや金神様には心地よいのでござりまする。若はお優しゅうござりますれば、私めの頼みはお聞きくださりまする。解らぬ事は素直にお聞きくだされ、金神様のお言葉に従われ、お調べくだされまする。それで十分にござりまする。護りの私めには、過ぎたるお方にござりまする」

「え?まじ?まじっすか?へへ……そうかぁーそうなんだ」

 何時もの事だが、圭吾はいえもりさまに上手くのせられ感は否めないが、それこそ気にしない質なのか、素直が仇なのか……。兎にも角にも、面倒臭い質も手伝って、それ以上考えないし、思い煩わない。

「ん……じゃあいいや」

「はい、よろしゅうござりまする」

 いえもりさまはそう言うと、お花見に圭吾が買った苺の大福の残りを頬張った。


 ……もしかして、いやいや只々、いえもりさまは面倒なだけだったのじゃあないだろうか?

 余りに無知な圭吾に、一から教える事が……

 圭吾がいえもりさまと付き合うようになって、少し変わったのと同じように、いえもりさまも少し変わったのかもしれない?ちょっと圭吾寄りに……


最後迄お読み頂きありがとうございました。

〝いえもりさま〟達を書き始めて、一年近くになります。

拙い文章をお読み頂けるだけで、本当に倖せでした。ありがとうございました。

仕事が忙しくなり、更新するのに間が空く事があるかと思いますが、少しづつ地道に話を進めていきたいと思います。どうかこれからも宜しくお願い致します 。

また、時間があれば新しいものを書いてみたいと、こんな私ですが思っています。

もしも、そのような機会がありましたら、少しでも興味をお持ち頂ければ倖いです。

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