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花見の頃 夜桜の宴 其の一

「若!お花見をいたしまする」

 4月に入ってから暫くして、浮かれ気分のいえもりさまが、バイトから帰って来た圭吾に言った。

「はあ?」

「あちらにござりまする観音堂に 、それは見事な桜がござりまして、毎年〝つちのこ様〟にお誘いいただきまして、花見の宴をいたしておりまする」

「あちら……って、ぬし様がいる〝あちら〟かい?」

「違いまする。観音様がおいでになる、ほれ〝あちら〟でござりまする」

 いえもりさまの吸盤の指す方へと顔を向ける。

「ああ……公園のある……そういえば、公園の奥の坂を登った所に、ほこらがあったような気がしたけど、あれって観音堂だったんだ?」

「何をもうされまする!確かに村人達により、建立されたと言い伝えられておりまするゆえ、小さき観音堂でござりまするが、村人が心よりお慕いし信じておる、それはそれは由緒正しき観音堂でござりますれば、お言葉にお気をつけくださりませ」

「村人……って、いつの話しだよ……。って、いえもりさま、今確か〝つちのこ様〟って言ったよな?」

「さようにござりまする」

「〝つちのこ様〟って、あ・の〝つちのこ〟だよな?」

「はて?あのーもなにも、〝つちのこ様〟は〝つちのこ様〟でござりまする。いうなれば、あ・の〝ぬし様〟のお従兄弟様に当たる〝つちのこ様〟でござりまする」

「げっ、ぬし様の従兄弟?なんだそれ?」

「なんだそれ?ーでは、ござりませぬ。此方一帯をぬし様が治められ、つちのこ様があちら一帯を治められておいででござりました」

「あちら一帯って、観音堂辺り一帯?」

「いえいえ、あちらのお山一帯でござりまする」

「えー。じゃあ、ぬし様はこっちの山一帯だった訳?かなり広くね?」

「さようにござりまするが、お山も幾つかござりましたゆえ、ぬし様が治められておいでは此の辺り一帯でござりまする」

 と、言いながらいえもりさまが、小さな手?でグルグル指差すのだが、どの辺りまでなのかは解せない。解せないが、なんとなくあの辺迄が一括りの山で、その先は別の山だろうと、想像しうる境目が、なんとなくあって、それが真実か否かを気にする質ではない。

「マジ本物だったら凄くね?未確認生物がマジいたって事じゃねーの。テンション上がるわ」

「それほどお喜びとは、さぞや〝つちのこ様〟もお喜びでござりましょうが、残念な事にお目もじはかないませぬ」

「ええ〜。ここまで振っておいて、マジ萎えるわ」

「もうしわけござりませぬ。〝つちのこ様〟はお体を弱らせられ、彼方にお行きでござりまする」

「あちら……って、あちらにいるんじゃねえの?」

「違いまする。ぬし様がおいでの彼方にござりまする」

「マジ意味わかんねえ。あちらあちらって、幾つあんだよ」

「幾つもあるのでござりまする」

「うっ……」

 圭吾は言い返せず口ごもった。何故なら〝このすかたん〟と、言わんばかりだったからだ。

「つちのこ様が治められておいでのお山に、病院なるものがござりまする」

「ああ……あそこだろ?」

「あそこにござりまする」

 いえもりさまは、噛み締めるようにゆっくりと、声を落として言った。

「代々山と田畑を所有いたしておりまするが、当主が死ぬごとに税金とやらを払わねばならず、山や田畑を切り売りいたしました」

「ああ……かなりこの辺じゃ有名な話しだぜ。税金払った残りで事業始めたら、大当たりしちゃって、税金対策で病院建てたら、またまた流行っちゃったっていう、超絶最強運の持ち主……」

「さようにござりまする。〝つちのこ様〟が護りにござりますれば、運も強いのは当たり前にござりまする」

「まあ……そうだな……っても、弱らせちまったらやばいんじゃねーの?」

「さようにござりまする。やぼうござりまする。今の当主が営む病院とやらの裏のお山に、埋めてはならぬものを埋めてでござりまする。ゆえに、つちのこ様が治めるお山の一部が汚れてしまい、つちのこ様が弱られてしまわれたのでござりまする」

「埋めてはならぬもの……ってなんだよ?はあ?まさか、医療廃棄物じゃねーよな?そんなん埋めたら、マジやべーよ……。いやいやまてよ。前にそんな噂あったわ……そんな事大嫌いな父さんが聞いてきて〝汚ねえ事する病院なんか、行かれるか!〟とかなんとか言っちゃって。だからあそこの病院は、行った事ねえんだわ。いやぁ、マジかあ……。ええ?マジやべーじゃん。だって、それ騒いでたのかなり前だもんな、ずっとやってたら、汚染されてんぜ。医療廃棄物は、マジやべーから」

「ゆえに、つちのこ様は弱られて、彼方にお行きになられましてござりますれば……残念ながら、あのものの栄華もこれまでにごさりましょう」

「はあ……まじか……。まあ、ざまあみろ感もあるが……」

小学校の遠足や、友達と遊びに行ったりと、公園や森などはかなり馴染み深いから、他人事ではない身近な問題だ。

 それこそどの辺りかは定かではないが、森や林が残るあの辺りの一部か、または広範囲か……。とにかく、数少ない自然豊かな場所が汚染されているというのは、大変気がかりな問題だ。

 ましてそこが、〝つちのこ様〟や〝観音様〟の居る場所と聞いては、なんて罰当たりな事だろうかと、こんな圭吾ですら思うのに


 ー地主だからって、何してもいいってもんじゃねーよー的な。


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