出会い 鬼の契約書 其の終
「金神様、おかんが生き返るって、どうやってー?まさか、ゾンビじゃないよね ?」
「阿呆ものめ。全然違うわ」
「げっ、ゾンビ知ってんだー。じゃあ、どうやってー。ねえ金神様ー」
はっと目が覚めたのは電車の中ー。
圭吾はキョロキョロと辺りを見回して、夢だったのかな?って思う。窓の外は赤々と夕焼けが綺麗だ。
暫くぼんやりと眺めていると、見慣れた景色が広がって来た。
いつもの癖で、ちょっと早めに立ち上がり、手摺りに掴まってふらふらドアの前へ立ち、ドアの上に貼られた広告を見る。
電車がいつものように所定の位置に止まると、圭吾は慌ただしく駆け出して、エスカレーターを駆け上がった。そして、長年バスケで培ったすばやさで改札口を抜け、商店街を走り、体力の続く限り走り続けて、家の前の通りにたどり着いた。
肩で大きく息をしながら、誰もいない通りを歩く。
何処からか網戸越しの家の中から、テレビの音が聞こえた。
浜田さんの子ども達が、姉妹で家の中に入っていく姿を見つけた。玄関の中で、浜田さんと話をする声が聞こえて来た。
家の台所の前を通ると換気扇が回る音がして、包丁で何かを切るリズミカルな音が、時たまずれるように聞こえた。
「ただいま」
「お帰り。早かったね 」
「いつもと同じだよ」
「んー。ちょっと早いよ。お肉焼くのに時間かかるよ」
「ああ、全然いいよ」
「なんか食べて来た?」
「いや、なんで」
「いや、待てるって言うからさ」
「待つぐらいできるさ」
「えーそうだっけ?」
母親が軽快に言った。
「ほら、ゾンビではなかろう?」
「げっ、金神様ー。やっぱ、夢じゃなかったんだ」
「ざんねんだがのぉ」
「金神様が、それはお見事に鬼に話をつけてくださりました」
「いえもりさままでいたかー」
「わか、それは酷うございます」
「.....どういう風に話つけたんす?」
「どういう風 ..... とは?」
「ほら、女子も帰って来てるみたいだしー。本当なら婆さんが嫁入りするはすだった訳だから、婆さんが連れて行かれるとか?」
「ああ、あれは別件があってのー」
「その件に関しても、お見事でござりました」
「当たりまえじゃ。わしが授けてやった子を、どうにかするなど、もってのほかじゃ」
「さようで、さしもの鬼頭殿も、なにも言い返しはできませなんだ。ほんによかった、よかった」
いえもりさまはカラカラと喜んでいるが、圭吾には不安が残る。
いったい、この人達ーいやいや、このもの達は、これからどうするつもりなんだろうかー?
怖いから、考えない事にしておこう。
とにかく、金神様と、いえもりさまのおかげで、いつもの毎日が戻って来たー。