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春彼岸 彼岸の行人(こうじん) 其の三

 居間の蛍光灯がおかしいまま日が過ぎた。

 替えたばかりなのにチカチカと、点いたり消えたり、点きが悪かったり、少し暗く感じたりー。豆球が点かなくなったり、グローが悪くなったり……。とにかく蛍光灯の様子がおかしい。

 それが続くと、居間の蛍光灯だけにとどまらなくなってくる。

 テレビの受信が悪くなったり、冷蔵庫の氷ができなくなったり、トイレの水が流れなくなったり……。

 修理にきて貰うと、驚く程の簡単な理由でおかしくなっていて、すぐに直るのだがじきに調子が悪くなる。

「ちっ、気にし始めると面倒臭いな」

「……今回はかなり強力でござりまする」

「マジ?ーマジかあ……。なぜこうなるかわかんねーの?」

「わかんねーのでござりまする」

「マジ役立たず」

「それはあんまりにござりまする……。金神様だけでなく、ご相談いたしたところ、福の神様すら解らぬものを、私めに解るはずもござりませぬ」

「ああ!開き直ってやがる」

「ひ……開き直るなどと、滅相もござりませぬ……。おお……そうゆえば、〝ばれんたいんのちよこ〟のお返しは、なされましてござりまするか?」

 いえもりさまは、はぐらかすように言った。

「あ?ああ……まあ」

「さようで……おめザップで取り上げておりまするような、美味しい〝ちよこ〟を、お返しなさりましたでござりましょうな?」

「ああ……。大石に聞いてそれなりのものを返したよ」

「それはよろしゅうござりました。流石若様にござりまする」

「はは……まあ……」

 圭吾は何時もの事ながら、上手くおだてられてごまかされた。

 こういう事は、いえもりさまはかなり上手だ。

 ーいやいや、圭吾がおだてにのりやすいだけだ。


 三上真鈴とは、大石や工藤のお節介も手伝って、いいお友達になっている。

 今では工藤の彼女さんになった相沢さんが、原因不明で寝込んで起き上がれなくなってしまった、大学の先輩の正美ちゃんの事で、三上真鈴と連絡を取り合うようになって、その縁で幸か不幸か圭吾は、工藤と相沢さんは今だに歩み寄れないようだが、羽柴さんと大石のカップルとの三組で、グループ交際とやらをしている。

 つまり平たく言うと、いえもりさまの謀にまんまとはまったーってやつ?だろうが、そう思うと癪にさわるので、決して絶対そうとは認めないがー。


「おっ。そうだ!いえもりさま食う?」

 圭吾もちょっとバツが悪いから、話しを逸らそうとホワイトデーに買った時に、ついでに買っておいたチョコレートをいえもりさまに渡した。

「こ……これは。あのおめザップでやっておりました……」

「そうそう。なぜか今話題のめちゃ高いチョコレート」

「わ……私めにござりまするか?」

「まあ……。けど、美味いけど量が半端なく少ないから、俺だったら量が多いのを選ぶね」

「さようでござりまするな……これは嬉しゅうござりまするが、私めもいっぱいいっぱいの〝ちよこ〟が、嬉しゅうござりまする」

「んじゃ、今度は沢山入ってるやつを買ってくるよ」

「ありがとうござりまする」

 いえもりさまは、瞳をうるうるさせて感激してくれている。

「ところで、正美ちゃんはいつまで具合い悪いわけ?」

 包みを剥がして箱からチョコレートを出してやると、いえもりさまは大事に大事に口元に運んで、蕩けそうになりながら頬張った。

 それをゆっくり眺めながら、圭吾は聞いた。

 流石に三上真鈴も、相沢さんも心配しているので、気になってはいる。

「さようでござりまするな……。悪しきものは、私めが食ろうてやりましたゆえ、その分を差し引きまするから、そう長くはかかりますまい」

「マジ?」

「マジにござりまする」

「どの位?一ヶ月?二ヶ月?」

「いやいや。前にも申しました通り、罰当たりはそれは恐ろしゅうござりまする……」

「うんうんわかってる。だから聞いてんじゃん?」

「早くて来春……。いやいやもう少しかかるやもしれませぬな」

「げっ?マジ?いえもりさまが食ってくれてても?」

「さようでござりまする。ゆえに恐ろしいのでござりまする」

「マジかあ……」

 じゃあ、三上真鈴に抱きついた痴漢野郎は、本当にどうしただろう?


 ー死ー


 いやいや、そんな簡単な事で終わらないから怖いような気がする。

 死ぬより辛い事って……考えるだけ怖くなるから、考えるのはよそうー。




 さて、三月の三大イベント

 1 お雛様

 2 ホワイトデー

 3 お彼岸


 ホワイトデーが終わると日本の伝統行事であるお彼岸がやってくる。

 そしてこの時期、墓参りに行かない我が家は、一週間仏様のお世話に忙しい。

 曾祖母ちゃんが生きていた時は、我儘曾祖父さんが眠っている寺と同じ宗派のお坊さんに、お経を上げに来て貰っていたが、お経の上手だったお坊さんが、三、四年来てなんと感電死してしまって、来て貰えなくなってしまった。

 その理由が、本当に嘘のような話しだが、老人だったお坊さん……一応名の通ったお寺の住職さん……たぶん半分隠居していて、若住職に大きな行事は任せていたものと思われるが……。そんなお坊さんだったので、かなりのご高齢だったが、お経はそれゆえに本当に上手だったそうだ。そのお坊さんが、敷き毛布におねしょをしてしまい、感電死してしまった。

 その為代わりに来てくれたお坊さんが、これまた前の老坊さんとは打って変わって、お経を読むのが素人にも解る程の下手くそだった。

 二回ほどお経を上げて貰ったが、余りにも下手くそなので、あれだったら、自分達で〝南無阿弥陀仏〟と唱えた方がまだ供養になると、お坊さんを呼ぶのを止めてしまった。

 つまり我が家では、墓参りもしないし、お経も上げて貰わないので、その分を仏様にご奉仕するのか、彼岸の入りにお供え物から花などを仏壇に並べ、入りぼた餅で牡丹餅ー。つまりおはぎを買って来て供え、海苔巻きか稲荷を供える。その後一週間三食、家族と同じ物やおこわやおにぎり、仏壇に入っている仏様達が好きだった物を、買ってきたり作ったりして供える。

 明け団子といって彼岸明けに団子ー。我が家はみたらし団子が好きなので、みたらし団子と海苔巻きか稲荷、またはおにぎりを供えて明けるまで続けるのだ。

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