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春彼岸 彼岸の行人(こうじん) 其の二

「またもや不思議な出入り口が開いたようにござりまするな」

 桜餅の食いかけを片手にしたいえもりさまが、神棚の上から圭吾に言った。

「な……なんだよ」

 桜餅が口にある所為なのか、はたまたわざとやっているのか、不気味な言い方をして、ビビリの圭吾をヒビらせる。

「この家は、なぜか不思議な出入り口が開いて、不思議なものが出入りしたり、此方の物が彼方に行ってしまうのでござりまする」

「あっち……って、ぬし様が居る?」

「その彼方とは違いまする」

「え〜じゃあ何処だよ!」

「時には異世界だったりー、時には霊道だったりー。私めにも解らぬものにござりまする。ゆえに私めがおりながら、このように続いておるのでござりまする」

「マジーずっとかよ?」

「先先代様の頃からでござりまするが、勘が鋭い母君様が、先代様とお戻りになってから徐々に強くなったのでござります。母君様と先代様が、この家で住まわれるとお決めになりましたのは、頑固な先先代様が亡くなられて暫くの後でござりました。曾祖母様が居られる内は出入り口が現れる頻度も間がありましたが、お亡くなりになり、先代様の代になりますると、頻度も増え力も増しました。しかしながら、私めも以前お出での折に金神様にもご相談いたしましたが、さっぱり解らぬのでござりまする」

「はあ?最強神でも役立たずだなぁ」

「そ……それを申されましては……」

 いえもりさまは、大慌てするものの否定しないのが、ちょっとうける。

「若が生まれる前に、それは見事な紅梅がござりまして、私めと共に家を護っておりましたが、徐々に弱り生を枯らしてしまいました。そういえば、あのものが弱り始めた頃より、不思議な事が起こるようになったのでござりまする」

「へえー。紅梅には護る力があるのか……」

「何を申されまする。先先代様がお山よりお連れ申した、我が家の全ての木々達にはお護るする力があるのでござりまする」

「えっ?全部?」

「全部でござりまする。以前椿の木を切らねばならぬ事態になりました折などはー」

「椿ってあそこの?」

 圭吾は居間の窓から見える椿の木を指して言った。

「さようで。若がまだお小さい頃、隣のお家が増築すると申し、お邪魔になってはと、気の良い先代様が椿を切るか悩まれた事がござりました。その折母君様がいたく椿に同情なされ、それは悲しまれましてござりまする。椿も口惜しゅうござりましたが、母君の悲しまれるお姿にいたく心打たれ、清く覚悟を決め母君様の夢枕に立ち、自分が切られようとも、我が子を残すゆえ悲しまれぬようにとお伝えいたしたとか」

「あっ!それ知ってるわ。前に言ってた……。そうそうー何年か前に椿の子どもができたって喜んでた。わざわざ見せられてその話聞いたんだわ。ー確か切るのが可哀想で、ずっと泣いてたら夢に出てきて子を残すから悲しまないように言ったから、ふと見ると小さいのが傍から生えてきた夢だったって。やっぱすげえなおかん、知らないうちに椿の木とコンタクト取ってんじゃん」

「さようにござりまする、母君さまはお凄いのでござりまする。結局椿は切らずともよいようにー。随分と枝を植木屋に折られましたが、切らずにすみました。しかしながら、椿は再びご迷惑になりますれば、今度こそ潔く切られる覚悟を見せる為、ほれあのようにお約束の子を残す事にしたのでござりまする」

 椿の木の根元から伸びた椿の子?には、幾つもの蕾が膨らみ、赤い可愛い花を咲かせているものもあった。そういえば、えらく母親が喜んでいるのだろう、スマホの待ち受け画面になっていたようなー?

「このように……」

 圭吾が考え事をしているにもかかわらず、いえもりさまは淡々と話を続けた。

「このように我が家の木々達は、家や母君様達をお護りいたす為には、我が身を切られようとも厭わぬのでござります」

「あ……あざあす。これからは、庭の木を大事にするわー」

 圭吾は素直に本音が出てしまった。実はとても素直なところがある。

「あの紅梅には出入り口を閉じる力があったのやもしれませぬな。ゆえに紅梅が弱ればこの家に掛かる奇妙な力が増したのでござりましょう」

「だったら、紅梅が無くなった今は、ずっと出入り口が開いているはずだろ?」

「そ……そうなのでござりまする」

 いえもりさまは、ちょと困った顔を向けて言った。

「ちっ、わけわかんねーな。とにかく奇妙な事が起こるのはヤダな」

「それに父君様への影響が心配にござりまする」

「そういや、父さんがどうのこうのって言ってたよな?」

「さようで。母君様と若様は、最強神様の金神様に護られておりまするゆえ、大事には至りませぬが、父君様はそれで無くとも、実に弱い運気でござりますゆえ心配にござりまする」

「げっ、やっぱそうか?見るからに運気無さそうだもんなぁ……」

 しかし残念がっても仕方ないが、我が家の大黒柱が、〝実に弱い運気〟ってどうよ?

 我が家の運気が、全く上がらないのも頷けるって事かー。


 はあー。ため息だわー。





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