初花月 いえもりさまの謀 其の六
翌日圭吾は、学食で大石と一緒になった。
大石とは、大体講義が同じだから、行動を共にする事も多い。
「おう」
圭吾と大石は、この学食にしては、美味いと評判のカレーライスを食べている。
学食は安くて美味い!とか、広くてきれいだ!とか、値段の割りに量がある!とか、そういう話を聞くと、食べる事には目のない圭吾は、その都度悲しくなる。何故なら、圭吾の通う大学の学食は、決してそれらに当てはまる学食とはいえないからだ。
ーとはいえ、母親に高校生のように、弁当を作ってもらうのも違うように思えて、近くの店に行ったり、コンビニで買って来たり、時にはこうして学食で食べたり……。圭吾なりにいろいろと、工夫はしている。
「此処の、カレーだけはいけるな」
「まあな」
量もあるし美味いし安い。
「あれから、工藤は上手く行ったみたいだぞ」
「マジ?」
「そうそうお前ナイスだわー。抜けてからお前の話題で大盛り上がり」
大石は急に言って、親指を立ててグッジョブを表した。
「ボーリングは、ちょうど四人四人になったから、ペアー組んで対抗戦したんだわ。そしたらどんどんいい感じになっちゃってさ。あれだな、ボーリングにしたのもナイスだったな。流石だ俺」
大石はわざと、うっとりしたように言ってみせたが、そこはスルーして
「ずっとやってたのか?」
圭吾が相手にしないので、渋々仕草を戻した。
「ああ。みんなで俺んとこ雑魚寝で泊まって……。朝帰った」
「マジかー」
帰って正解だったとつくづく思う。
「しかし、工藤は元気なもんだよ。朝から機嫌いいなんてもんじゃないぜ」
「そりゃよかったね」
「よかった、よかったよ。まっ工藤も相沢も幸せならいいじゃん?」
「まあ……。そうだな」
「って、お前もよかったじゃん。可愛いのとお近づきになれてー」
「はっ?」
圭吾は、大石の言っている意味が理解できずに大石を凝視した。
「照れんな照れんな」
大石はとぼけるなと言わんばかりに、からからと笑った。
「えっ?いやー。まじまじちげーから」
圭吾は、三上真鈴の事を言われたと察して慌てた。
「いやいや、照れるな照れるな、可愛い近所のお友達」
「だからちげーって」
からかっていたかと思うと、直ぐに真面目な表情を作って圭吾を見た。
「そういえば……」
「えっ?」
「お前の近所の女子って、障害があるだろ?」
「ああまあ…」
「見てりゃわかんだけどさ。手話使って隣の女子と話してたから」
「……」
「それなのに、いろいろ話してたぜ」
「誰が?」
「お友達のー」
「正美ちゃんって女子?」
「ああそうそう」
「えっ?なにを?」
「話しできない事とかー。ほんと聞いてもいないのにいろいろだぜ。障害あるから付き合うの大変だとか、我が儘だとか、甘えてるとかー。まあそんな類を永遠と、うざくなるくらいにさ。最後には、面倒臭くなって、彼女いんの言ったさ……。つまりそういう感じ。パッと見、俺あの娘可愛いと思ったからな。見透かしていろいろ言って来たんだと思うぜ。友達って言っているけど、ありゃ全然だね。悪口にしか聞こえないような事しか言わねえもんな。全く女って怖いよな。その点のんはそういう事嫌いだからな、まあ其処がいいっつうか……」
「……三上さん、そんな事知らねえと思う」
「だろうな。あの女子純情そうだもんな」
のんとは、羽柴望美さんの事で、大石のコスプレ好きの彼女さんだ。
性格は気さくであっさりとしていて、コスプレ好きを除けばいい人だ。そういえば、相沢さんに似ているかもしれない。
以前大石が羽柴さんに事情を話して、仲を取り持とうとしたらしいが、まったく趣味が違う羽柴さんに、相沢さんが引いてしまったらしい。
他の連中の彼女さんは、他校の人達だから相沢さんとは関わりがない。
結局工藤の気持ちは一途なのだが、〝合コン好き〟が災いして、なかなか相沢さんへの一途な気持ちが伝わらずー。というか、〝合コン好き〟で名を売った工藤を、誰もが気の多いチャラ男と見るのは、致し方のない事で、たとえ相沢さんが憎からず思ったとしても、工藤のチャラ男印は消せるものではなかったはずだ。
大石は、そういう気はいいが気の弱い工藤の為に今回の計画を企て、本当の工藤の良さを相沢さんにわかって貰う為にもくろんだ事が、上手くわかって貰え……。
いやいや相沢さんも満更じゃなくて、ただ工藤=チャラ男が気になってただけ?
「えっ?あれってもしかして?……」
「いいのいいの、工藤が幸せなら……。あとは仲間内じゃ、田川くらいだかんな、頑張れ」
「な……何が?」
「いやいや、お前も工藤同様屁垂れだかんな、いざとなったら俺らに任せなさい」
「はあ?マジやめてくれ」
「いやいや任せな」
「マジやめろ」
「いやいや任せろや」
ーこいつらマジうぜえー
それから直ぐに圭吾は春休みになって、工藤の緩みきった幸せな顔を、じっくり拝んでいない。
だが仲間からの情報や、工藤のラインの様子で、一足早くすこぶる暖かい春が来て、毎日が楽しく忙しい事だけはわかっている。
ーだがしかし、工藤の幸せは喜ばしい事だが、圭吾は釈然としないまま、疑心がつのるばかりだ。
どう考えても、あの場に三上真鈴が呼ばれた事が変だ。
!!!そうだ呼ばれた事が変なんだ。三上真鈴がー
それ以前に〝あの会〟事体が、本当に開かれるべくして開かれたものかすら、圭吾には妖しくて仕方のない事に思える。
これはいえもりさまと付き合うようになって身についた〝感〟?ってやつかもー。