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初花月 いえもりさまの謀 其の五

 ここ暫くいえもりさまの姿を見かけない。

 まだ拗ねているのかと思って、圭吾もそれ以上は気にかけないでいる。


 大学に行くと、合コン好きな工藤が声をかけて来た。

「田川今夜の事聞いてっか?」

「えっ?なに?何も聞いてねえ」

「マジ?なんか大石達が食いに行こうって」

「どこへ?」

「そこのお好み焼きや」

 大学の近くに美味いと評判の、雑紙にも載った事があるお好み焼き屋がある。

 圭吾も幾度か行った事があるが、評判に違わず本当に美味い店で、何時も客が一杯だ。だが、大学の名を出すと予約ができるという、ありがたいお店でもある。

 つまり、評判が高くなる前から、うちの大学生がかなり通っているから、評判が高くなった今でも、先輩達のお陰で特別扱いをして貰えるという、恩恵を頂いている。

「おまえバイト?」

「いやちげーけど……まじかー」

  圭吾には寝耳に水だが、彼奴らなら驚いた事でもない。

 いわゆる何時もの事だ。

 工藤と別れると、大体同じ講義を選択している、話題に出ていた大石がやって来た。

「工藤から聞いた?」

「あっ?ああ……」

「今夜バイトなかったよな?」

 この為に昨日ラインで確認してきたのか。

「……ないけどさ」

「じゃあよろ」

「いやいやー」

「あいつ合コンで知り合った、同じ大学の女子にぞっこんでさ」

「はあ?」

「知っての通り、あいつ合コン好きじゃん?先輩とかに声かけて参加してんじゃん?」

 工藤は善良でいい奴だが、合コン好きなのが玉に瑕だ。

 どうやら、年の離れたお兄さんの影響らしいが、高校の頃から合コンというものに憧れていたらしく、大学に入って、合コンをするのを楽しみに、大学生になったような奴だ。

 そんな奴だから友達からも呆れられているが、考えてみれば、それだけの人脈があるということで、それはそれで凄い奴だと思う。

 さてその工藤が、たまたま頭数を揃える為に誘われて来た、同じ大学にいる女子に一目惚れしてしまった。

 それからというもの、先輩繋がりでお近づきになったものの、気の弱い性格が災いして、なかなか気持ちを伝えられないでいるらしい。

 そこで合コン好きだけが玉に瑕の、お人好しで世話好きな性格の工藤の為に、大石を筆頭に圭吾の仲間達が、余計なお世話を焼く事にしたという。

「あいつ気が弱いじゃん?なかなか告れなくてもたもたしてるから、俺らで取り持つ事にしたから、お前もそのつもりで参加しろよ」

「はあ?なんで俺まで?」

「何時も連んでんのに、お前だけいねーの可笑しくね?」

「いやいや可笑しくねえから」

「彼女いねーの工藤と田川だけじゃん?可愛い子連れて来るよう言ってあるから、田川もめっけろや」

「いやいや大きなお世話だからー。ってか、工藤にセッティングさせたのか?」

「まさか。たまたま松原が同じ講義取ってんだよ」

「誰と?」

「工藤の……。まっ工藤の為だから……」

「はあー。マジかあ……ところで工藤は知っての?」

 圭吾が頭を抱えながら聞くと

「俺らがくっつけるつもりで画策しているとは、思ってねえだろな」

 大石はククク……と意地悪く楽しげに笑った。



 夜6時、気乗りしない圭吾は大石に促され、美味いと評判の大学の近くのお好み屋へー。


 工藤の他に松原に沢井。

 ……こいつら彼女さんの顔も知ってるし……。

 いくら友達の為という大義名分があるにしろ、なんだかんだといって、可愛い女子目当てもあったりして。


 店の奥の狭い個室へ行くと、同人数の女子大生が座っていて、その中の一人がにこにこ笑って手を振った。

 この個室を予約できるのも、先輩方々の恩恵だ。今じゃなかなか、予約が取れないらしいーなんて考えていて、女子の顔を見ると

「マジか?相沢じゃんー」

 高校が同じで、部活も男子と女子は異なるが、同じバスケット部だった、相沢杏子が其処にいた。

「ごめん待った?」

 愛嬌のいい笑顔を作って、工藤と松原は言った。

「ううん。ちょっと前に来たばかりだよ。え!嘘〜田川君じゃん?」

 相沢が頓狂な声を発して言ったので、目ざとく工藤は圭吾を見た。

「えっ?田川、相沢さんを知ってんの」

「あー高校の同級生」

「そうそう。ニ年と三年と二年間も!それに部活もー」

「へー?」

「男バスと女バスのね」

「まあ……」

 そう返事をすると、圭吾はちょっと工藤の冷たい視線を避けるように、一番奥の席に腰を下ろした。

「あ?」

 圭吾は奥の席に、三上真鈴を認めて目を見張った。

 圭吾が指を差すと、三上真鈴も吃驚した顔をして見つめている。

「なに田川。彼女を知ってんの?」

 隣に座った、フリフリコスプレ好きな彼女持ちの大石が、意味ありげに言った。

「家が近く」

「へー?」

 大石は、三上真鈴に少し興味を持ったようだが、すぐさま視線を他に移した。


 ** 相沢さんと友達? **


 圭吾はすぐさま三上真鈴にラインを送る。


 ** 正美ちゃんの後輩 **


 三上真鈴は、隣の正美ちゃんの肩に左手を置いて言った。

 隣の正美ちゃんが笑顔で会釈したので、圭吾も頭を下げた。


 ** 俺は頭数合わせ。工藤って奴が相沢さん目当て **


 聞かれもしないのに圭吾は言い訳を送る。


 三上真鈴は工藤に目を向けて頷いた。

 誰が見たって、工藤が相沢杏子目当てで、この席が設けられている事は一目瞭然で、相沢さんも満更でもないのも、この場の者はわかっている。

 というか、圭吾と三上真鈴以外は、理由を承知でこの席に参加しているようだ。

  三人で二人をくっつけようとしているし、相沢杏子の友達も正美ちゃんも、この場を盛り上げている。

 圭吾と三上真鈴は、当然のように場違いな所にいる感じになって来た。

 いやいや今日の主役は二人だから、高校が一緒で共通の話題持ちの圭吾は、反対に居ない方がいいのかもしれない。

 食べるだけ食べて、さっさとずらかった方がいいと思っていると、例の三人の発案で、食べ終わったらボーリングに行こうという事になった。

 場を移すこの機会に、圭吾は三上真鈴を送る事を口実にずらかる事にした。

 三上真鈴も、正美ちゃんに誘われて来たものの、まさか相沢杏子と工藤を〝取り持つ会〟とは知らずに参加して、たまたま圭吾が居合わせたから助かったものの、ボーリングに行くと言われても行く理由もないし、帰りも遅くなるのは想像できる事だから、圭吾に聞かれて渡りに船と帰る事になった。

 三上真鈴は正美ちゃんに手話で帰る旨を伝えた。

 他の面々も、正美ちゃんと手話で会話しているのを見ているから、三上真鈴の事を理解したようだった。

 お好み焼き屋を出ると、圭吾と三上真鈴はみんなと手を振って別れた。

「田川君またね」

「ああ……うん」

 相沢杏子は、さっぱりとした性格で、周りの目も気にする事もなく言うが、圭吾は照れてしまう。

「田川!家近けえんだし、家の前まで送れよ」

 大石が余計な事を言う。

「えっ?家近くなのか?」

 松原が興味津々だ。

「目と鼻の先だってよ」

「ちげーよ」

「マジ心して送れよ」

 すぐに図に乗るタイプの沢井が言った。

「わかったわかった、じゃあな」

 さっさと、心無い奴らの冷やかしを流して別れると、場を繕うようにラインを送る。


 ** 正美ちゃんとは大学の友達? **


 ** 小さい時からの友達 **


 三上真鈴の両親が、今の家を建てる前に住んでいた所の、お隣に住んでいた幼なじみで、物心がついた頃から、三上真鈴とコミニュケーションを取る為に、自然と手話もできるようになったらしい。

 今日は、相沢さんに誘われた正美ちゃんが、三上真鈴を誘って圭吾と遭遇したのだった。

 帰りの電車の中でも、ラインでコミニュケーションを取って楽しく時間を過ごし、気がつくと駅に着いていた。

 我が家を通り過ぎ、三上真鈴の家まで送り届けて、足早に帰途についた。


 しかしなんで正美ちゃんは、三上真鈴を誘ったのだろう?

 三上真鈴もわからないと言っていたが、頭数を合わせる為にしても、ありえねーし。

 つーか、マジ嫌な感じがする……。



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