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初花月 いえもりさまの謀 其の二

 翌日約束の時間より、五分早く三上真鈴はやって来た。

 気が早く、もはや支度も済んで、出かけるだけになっていた母親が玄関に出た。

「圭吾外で待ってるから」

 のんびりやの圭吾は、やっとのっそり立ち上がって、車の鍵を手にした。

 神棚の方から、なにやら恨めしげな視線を感じ目を向けると、じっと見つめるいえもりさまの姿があった。

「今日は駄目だけど、今度連れて行くからー」

「まじでござりまするか?」

 ふてくされた様子で、不思議な日本語を使ったので吹き出した。

「まじまじ。帰りにはお土産を買って来てやっから」

「いちごの大福にござりまするか?」

「わかったわかった。いちごの大福ーも、買って来てやる」

 いえもりさまは、パッと表情を明るくして圭吾を見送った。


 ー大師様も、いちごの大福には勝てないわけかー


 圭吾は今更ながら、いえもりさまのお茶目な性格に感心しながら、玄関を出て鍵をかけた。


 今日は平日で、父親は仕事に行っている。お留守番は、猫といえもりさまだけだ。

 猫は家を守ってくれないが、いえもりさまは守ってくれる。

 なんて有難いいえもりさまなんだー。と思いつつ、猫の額のような庭にある車庫に置かれた車の前で、母親が立って待っていた。

 死角で見えなかったが、母親の傍に、ちょっと痩せ型の背が余り高くない女子が立っていて、圭吾を認めると軽く会釈した。

「真鈴ちゃん。あんたよりひとつ上」

「ああ……こんちは」

 圭吾も軽く会釈すると

「圭吾!圭吾!私の息子!」

 母親が大きな声で、身振り手振りで説明しているつもりらしい。

 わかったのか、わからないのか彼女はじっと母親を見つめて頷いた。

 目がくりくりしていてとても綺麗で、そして本当に真剣に母親を見つめている。少し童顔で、圭吾の年上とは思えないほどだ。

 圭吾は母親を見つめる真鈴の肩を叩いて、自分のスマホを見せ

「ライン……交換」

 スマホに入力して真鈴に見せた。

 すると真鈴は暫くじっと見つめていたが、スマホを取り出して圭吾を見た。

 QRコードを表示して見せると、真鈴はQRコードリーダーで読み取った。

 すると圭吾よりも手慣れた様子でメッセージを送って来た。

 圭吾も決して遅い方ではないが、その手慣れた動作には感服して見入ってしまったほどだ。


 ** 今日は、よろしくお願いします **


 と、書かれてあった。


 ** こちらこそ **


 と、慌てて打ち返すと、真鈴は始めて笑みを浮かべて圭吾を見た。

「えーなになに?」

 母親が興味津々で覗き込んだ。

「ほれー」

 圭吾は母親にスマホを手渡した。

「なになに?」

「これで送ればいいだろ?」

「ああ…!なるほどね」

 母親は、納得したようにスマホを見ると、三上真鈴を車に乗るように促した。

「これがラ・イ・ンってやつね……?」

 ライン、ラインと唱えながら、一応タブレットは使っているので、 驚くほど時間はかかるが真鈴にメッセージを送れたようだ。

「お母さんだいぶいいんだ?まっ、インフンエンザは治っても直ぐに出歩けないもんねっとー」

 何故だかいちいち、メッセージを言葉にして送る。

「きよう、なんじにおきた?えっ6時?はやいね……。これなになに?どうやって送るの?」

 三上真鈴は、母親の手にあるスマホを覗き込んで操作を教えている。

「へーなるほどね」

 必要もないのに、言葉にして送ったり読んだりしているので、話の内容が多少わかる。

 スタンプの使い方やスマホの検索で、かなり盛り上がっていたから、退屈する間もなく着いてしまった。

 毎年利用するスーパーの駐車場に乗り入れると、母親が始めて着いた事に気がついたようで、吃驚して言った。

「もう着いた?」

「これから歩くけどね」

「普段真鈴ちゃんとは、お母さんがいないとあんまり話せなかったから、凄く楽しかったわ」

 母親は上機嫌でそう言うと

「此処に車を置いて、歩いて行きましょう」

 また声に出しながら打ち込んだ。

「はい。ーはいはい」


 車から降りて、スーパーを抜けて歩いて十五分位歩くと、参道に着く。その参道からまた暫く歩くと表門に着く。その門から本堂に向かって一礼し、少し先にあるお水屋で身と心を清める為、水を柄杓で組み左右の手に交互にかてから、口を濯いで下の流し場に吐き出し、柄杓の枝が下になる様に縦に両手で持って、残った水で持ち手を清めるように、枝に流しながら元の場所に戻す。


 少し先の香炉に、側に置いてある線香を一本取って供える。

 線香の煙を手で呼び寄せ、体の悪い所に当てると治るという言い伝えに、母親などは圭吾が小さい時、頭に煙を持って来たものだったが、小さい時はわからなかったが、実に失礼な事をしてくれたものだし、この言い伝えは決してあてにならないものだと、実証してくれもした。


 本堂に着くとお賽銭をあげ、合掌礼拝をする。数珠を手に掛けているといいというが、母親すらやった事はない。


 その他のお堂を参拝しながら、古くなったお守りやお札をお返しし、新しいものを買う。

 受験の際に母親が願掛けをして、達磨とお守りを買って来たので、今年はそのお礼参りが第一の目的だから、大変お世話になったお守りと達磨を丁寧にお返しし、新しく交通安全のお守りと、身代わり札を買い、

 母親が一番の楽しみとしているおみくじを引きに行く。

 圭吾は中吉。母親は末吉。三上真鈴も中吉だった。

 おみくじは、持って帰る所もあるが、此処はちょっと奥にある木の枝に結んでもいい事になっていて、母親が躊躇なく枝に結ぶので、二人もそれに習うことにする。


 広い境内を散策しながら、裏門から参道を通り仲見世に出て、去年も寄って食べた寿司屋に入る。

「此処の美味しいのよ。真鈴ちゃんお寿司食べれるよね?」

 母親が聞くので、圭吾がちゃっちゃっとメッセージを送ると、三上真鈴は頷いた。

「良かった」

 母親はそう言うと、上ちらし寿司を三つ頼んだ。

「圭吾なんて、大きくなるまで廻ってないと、寿司屋だと思ってなかったのよ」

「言わなくていいから」

「ちゃんと伝えてよ」

「えー。やだよ」

「あら生意気。格好つけちゃって」

「いいって」

「送ってー」

「いいって」

 圭吾は少し赤くなって、三上真鈴を見て誤魔化す為の笑みを浮かべた。


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