年明け 新年の宴 其の終
「あやや……あやや……」
急に踊っていたいえもりさまが、大声を上げたので、みんながいえもりさまを見つめた。
するといえもりさまは、ふらふらとおぼつかない足取りで、わなわなと瞳を潤ませながら一点を見つめて歩み寄って行った。
「此れは此れは福の神様、お久しゅうござりまする」
「え?福の神様?」
見れば、福々しく輝き放つ、丸顔のにこにこ笑顔のー。
一目で神様とわかる福の神様が、いろいろなもの達の内にあって、酒を酌み交わしている。
「ああ、有難い事にござります。有難い事にござります」
いえもりさまは、福の神様の元に平伏すと、おいおいと声を上げて泣き出した。
「此れは久しぶりだの家守。なかなか楽しそうでなによりだの」
「はは……若……若」
いえもりさまは、泣きながら弱々しく圭吾を手招きした。
流石に圭吾も、いえもりさまの有様に、慌てて従って側に寄った。
「福の神様、我が若主でござりまする。どうぞお見知り置きのほどを」
「おお、此方の若主か。実に楽しい正月であるな。何時もなら、この先の居心地の良い家におるのだが、余りに楽しげな様子に、ちと足を向けてしもうた。此処はなかなか楽しげな所故、我が分身を置いて参りたいがよろしいかの?」
「も……勿論にござります。是非とも是非ともお願いいたしまする」
「では、そのようにいたそう。さすれば、この愉快な心持ちが、いつでも感じられるというもの」
福の神様が、ふーと息を吹くと、コロンと小さな丸い石が現れた。
「此れを然るべき所へー。のお、家守りよ頼みましたぞ」
「はは……」
いえもりさまは、深々く頭を下げるとその石を押しいただいた。
「ほんにありがたき事にござります。今年は良い年となりまする」
見ていた周りのもの達は、大いに盛り上がって、楽しい宴会は元日中続いた。
「なんかーよかったね」
友ちゃんが圭吾に言った。
「うん。ずっといえもりさまは、大きな鈴を振って呼んでたから、マジ良かったよ」
下階の母親は、少し騒がしいと思ったようだが、テレビの音と友ちゃんが遊びに来ているので、その所為かと気にも止めなかったようだ。
勘が鈍い父親は、書斎にものの怪達が一緒にいるともわからずに、何時もの如くパソコンに夢中になっていたようだ。
圭吾も友ちゃんも、今までにない楽しい正月を迎えた。
未成年であるのに、またまた飲酒してしまった事は、この不思議な世界に免じて許してもらう事としてー。
翌日、圭吾と友ちゃんは、再び夢の世界から戻ったように、二階の猫部屋に雑魚寝で目が覚めた。
「うっさむ」
圭吾がぶるっとすると、友ちゃんも目覚めて身を縮めた。
部屋には、空き瓶がひとつ。
暫らくして目を覚ますと、友ちゃんはにこにこしながら帰って行った。
「がま殿が帰ってるだろうから、帰るわ。今年も宜しくね圭ちゃん」
っと、ちょっと意味あり気に言って、帰って行った。
「えー友ちゃん帰っちゃったの?」
朝母親が残念がったが、知った事ではない。
「若さま」
いえもりさまが、神棚から嬉しそうに言った。
「よかったね」
「はい」
いえもりさまは、隣にある福の神様の分身の石を撫でながら言った。
福の神様とは、福をもたらす神様だとは、みんな知っている。
その福の神様の分身が、うちに来たとしても、そう好い事ばかりがあるわけではないが、だけどやっぱり、ほんのちょっとだけど、好い事が続いている。
あけましておめでとうございます。
拙い文章をお読み頂き、ありがとうございました。
お読み頂いた皆様の元へ、福の神様がおいでくださりますように……