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年明け 新年の宴 其の三

 初日の出の東京の時間は以外と遅い。

 明るくなるのは7時頃だが、掃除に料理にーと、散々忙しかった母親は、まだ暫くは起きて来ないだろう。

 いえもりさまの鈴振りの所為で、少しばかり早めにおいでの年神様に、完全にいえもりさまのパシリと化した圭吾が、いえもりさまの指示の下、おせち料理やら、煮物やら、豚汁にいなり寿司を神棚ではなく、炬燵の上に並べて年神様をお・も・て・な・し・をする。

 神棚には母親が起きたら、例年のごとくお供えするからだそうだ。

「ほーほほ。今年は良きもてなしであるな」

「あー、母親が起きて来ないので、よくわからなくてすみません」

「よいよい。此れもまた一興。此処の煮物は先代より美味だの。味噌の汁も美味だが、私はすまし汁の雑煮が好みじゃ」

「雑煮は母親が起きて来ないとちょっと……」

「おおそうか。では味噌の汁でいなりを頂こう」

 年神様は、いなりを小皿に取ると嬉しそうに頬張った。

 年神様は、金神様と違いお姿がはっきりと見える。圭吾のイメージ通り細っそりとして、とても優し気で高貴なオーラを煌々と放っている。

「うーん。今年は美味にできておる。まだまだ先代のようにはいかなんだがー美味うなっておる」

 ほくほくと年神様は、一通りに箸をつけると上機嫌で神棚に戻った。

 ーと、同時に母親が二階から下りて来る足音が聞こえた。

「あら、また此処で寝ちゃったのね。風邪ひくわよ」

 そう言うと、炬燵の台の上にある重箱等に目をやった。

「あら珍しいわね、おせち食べるなんて」

「あ、ちょっと腹減ってー」

「いいのいいの。どんどん食べてよ。苦労して作ってんだから」

 母親は気を良くした様子で台所に行ってしまった。

 圭吾は、小さな時からおせち料理は食べないから、今年食べたとなれば、来年からは量が増える事だろう。と、ちょっとうんざりしながら、いなりを頬張った。

「ん?確かにー。ばあちゃんの味だ」

 離乳食の時から、ばあちゃんが料理を作ってくれていたから、ばあちゃんの味は懐かしい。

 圭吾に手がかからなくなると、母親は少しだがパートに出ていたから、料理はばあちゃん程上手くない。その母親の料理の味が、ばあちゃんの味になっているのは不思議だ。


 仏様と神様の水を変えると、湧きたてのお湯で茶を入れる。それから昨夜から用意していた、小皿に分けたおせちを供える。とても小さく切った餅で雑煮を煮ると、小鉢に入れて供える。

 菓子や果物ー。おせちに雑煮と、我が家の正月の仏壇と、今は空の神棚は賑やかなものだ。

 ー空の神棚に供えるのは無駄な気がするが、自分たちは祀っていないが、気づかぬだけで神様がお出でになっているかもしれない、と母親は考えているようだ。

 まあ、圭吾が生まれる以前からの、我が家特有なやり方だ。

 神様の礼儀にあっていようがいまいが、お構いなしというやつだけど、我が家では全てご先祖様流ー。

 暫らくして父親が起きて来た。

 父親は大の餅好きだ。正月の三が日は三食餅を食べる。

 雑煮や海苔を巻いたり、きな粉を付けたり、大根おろしを乗せたり……。

 好きなように自分でやるので、手間がかからないーと、母親は助かるらしいが、圭吾が餅を余り食べないので、三が日でも昼と夜は食事の支度をしなくてはならない。まあ、母親自身余り食べないから手間ではないらしいがー。

 雑煮を食べおせちを食べて、テレビを見ていると、直ぐに昼を過ぎた。

 まったりとした時間を過ごしていると、玄関が開いた音がした。

「今玄関開いたべ?」

「玄関?まさかー。だってチャイム鳴ってないし、鍵かかってるもの」

「いや!まじで開いたって」

 母親は全く信用しないので、仕方なく自ら立ち上がって玄関を覗いた。

「げっ!」

「ー誰か来てた?」

 居間から母親が声をかける。

「いや!」

「ーでしょ?」

 母親にはそう答えたものの、圭吾は目の前の玄関にいるがま殿を見つめていた。

「明けましておめでとうございます。若主さま」

「あっー。明けましておめでとうございます」

 ちょこんと軽く会釈する。

「あっー。ちょっと待っててー」

 圭吾は慌てて、今だ諦めず鈴を鳴らして踊っている、いえもりさまのいる神棚へー。

「いえもりさま!いえもりさまー」

「これは若さま」

「ちょっとちょっと……。がま殿が……」

「がま殿でござりまするか?」

 いえもりさまは、大きな鈴を置いて怪訝気に聞いた。

「玄関に来てる」

「おおー。それはそれはー」

 いえもりさまは、とても嬉しそうに神棚から下りて来て玄関に向かった。

「ちょっと圭吾、何やってんの?」

「ああちょっとね…」

「全く小さい時から落ち着きないんだから」

 落ち着きありすぎる母親が、炬燵に横になって言った。

 疲れが溜まっているのだろう。


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