表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/299

年明け 新年の宴 其の一

 大晦日は世間でも忙しいように我が家でも忙しい。

 晦日から大晦日にかけて、母親は圭吾が余り食べないおせち料理を作る為、台所に立ち通しだ。

 毎年の事だが、掃除を少しづつこなして来た母親の容量がいっぱいになって、とうとう溢れてしまう。

 今年もやはり、台所からお玉を片手に母親が凄い剣幕で、まったりテレビに現を抜かす男二人にまくし立てた。

「玄関と門ー掃除して頂戴!一夜飾りはいけないから、仏壇やお飾りは昨日やったけど、掃除ぐらいはして頂戴!!」

「あー、わかったわかった」

「わかってんなら、さっさとやっちゃってよ!圭吾も、バイトがあるとか言い訳しないで、少しは手伝って!!」

「わかったよ」

「ーったく、毎年毎年……」

 母親はブリブリしながら台所へ戻って行った。

 ばあちゃんが生きていた時は、もっと沢山作っていたから、小学生だった圭吾は、父親と大掃除係にあてがわれていたが、中学、高校と部活が忙しくなると、晦日、大晦日に掃除をする事しかできなくなってしまったので、少しお役御免となり、部活が終わった年の暮れは、受験勉強の為に流石に大晦日に玄関と門を掃除するだけになった。

 今年は昨日までバイトだったので、今日の大掃除を父親と手分けしてやらねば、多分先ほど以上の剣幕で怒鳴られる事だろうー。

「ーさてっと、二階のすす払いでもしてくるわ」

 父親はのっそり立ち上がると、そう言って居間を出て行った。

「まじ、面倒臭せえ」

 渋々立ち上がると、母親に言われた所をやらねばやばいー。

 スエットで外に出ると、思っていた以上に寒かったが、体を動かせば温まるだろうと、そのまま玄関のドアにホースで水を掛け、その後雑巾で手早く拭いていく。

 自慢じゃないが身長がある分、手も長ければ足も長い。手も大きければ足も大きい。運動部で鍛えてあるから体も動く。

 その気になってちゃっちゃとやれば、ご近所のおじさん達よりも早く済ませられる。

 門も玄関と同じ要領で済ませると、二階を掃除していた父親が、掃除機を持って階段を下りて来た所だった。

「下を掃除機かければ終わりでいいってさ。お前の部屋は自分でやれってさ」

「ああわかったー」

 圭吾が自分の部屋に行こうとすると

「なんか、今年は埃を払っても払っても、埃が落ちてくる感じで、嫌になっちゃったよ」

 たぶん父親は圭吾にではなく、独り言を言っているのだと思うが、ぶつぶつと言いながら居間に入って行った。

 ーまあ、父親の意味不はいつもの事なので、気にする事もなく部屋に入ると、窓を開けてはたきを掛ける。背が高いから、天井も簡単に払ってすす払いーとする。

 あとは父親が掃除機を掛け終えれば、その掃除機で部屋を掃除すればフィニッシュだ。

 居間に行くのも面倒臭くなったので、そのままベットに横になって、スマホを動かし始めた。


 ー!!!ー


「あれ?なんか埃っぽいー」

 圭吾はベットから起き上がると天井を見上げた。


「!!!」


 見上げていると、なんだか目に埃が入る感じだ。

「いえもりさまかー?」

 圭吾はそれしか思い浮かばずに二階に上がった。

 二階は両親の寝室と、圭吾の部屋ーになる筈だった部屋と、父親の書斎ーといえば聞こえがいいが、一日中パソコンをやったり、本を読んだり、一応寝る事もできるようになっている部屋がある。

 その中の、自分の部屋になる筈だった部屋に入った。

 圭吾が大きくなったら使う為の部屋だが、今は猫達の部屋になっている。その部屋に入ると、圭吾は天井を見上げていえもりさまを呼んだ。

「いえもりさまー。いえもりさまだろ?何してんだよ?」

 パラパラと埃が散ってくるような気がする。

「いえもりさま。いえもりさまー」

 幾度か呼ぶと

「若さま、何用にごさりましょう?」

 やっぱり、いえもりさまが天井を這ってやって来た。

「やっぱりー。何やってんだよ、埃を立てて」

「すす払いにござります」

「すす払い?」

「さようでー」

「なんで今年に限って」

「今年限りではござりませぬ。毎年やっておりまする」

「へっ?そうなの?……ってか、今迄こんな埃ぽいのなかったぜ」

「若さまも父君さまも、毎年遅くになさりますゆえ、私めは済ませておるのでござります」

「へえー。いえもりさまは毎年、屋根裏を払ってくれてるわけね?」

「さようでー。休んでおりまする外のものを使って、ちゃっちゃと済ませておりまする」

「外のーって、家守さん達?冬眠してんじゃねえの?」

「さようで。体だけ起こして手伝わせておりまする」

「ええ?寝てんのに起こして手伝わせてんの?それって酷くね?」

「起こしてはおりませぬ。体だけ動かしておるので」

「はあ?体だけ?」

「さようで」

「???つまり、彼奴ら寝たまま働かされてんの?まじかー」

「さようで。起こしてはおりませぬゆえ」

「まじかー。いえもりさま、それって操るってやつじゃねえの?そんな技持ってんだ?」

「技とまで申さぬほど、いとも簡単な事にござります」

「ー操られてる奴らは、いい迷惑だけどね」

 したり顔のいえもりさまをしみじみと見る。

 まじで、奥の深い〝いえもりさま〟だ。

 きっと、いえもりさまの全てを知る事は、圭吾の一生では成しえない事だと、しみじみと見つめながら考えた。

「以前は、母君さまがお掃除をしてくださりましたゆえ、神棚も綺麗になっておりましたがー。此処暫くはお掃除されたとは名ばかりで、あれでは年神様をお招きできませぬ。ゆえに、私めが外のものを使い、せめて埃を払う位はいたさねば」


 ああなるほどねー。


 うちは、料理上手なばあちゃんが元気なうちは、ばあちゃんがおせち料理、母親が掃除を圭吾と父親を使ってやっていたのだが、ばあちゃんが死んでからは、料理を以前の半分程に減らして、母親が作っているのだが、何せ適当をそのまま人間にしたような父子が大掃除をした所で、大して綺麗になる筈もなくー。

 まあいいかーで過ごして来たが、こんな所でいえもりさまに、責めてるつもりはないだろうが、結果として責められるとはー。

「適当でごめんね」

「まことに……。年神様のみならず、福の神様もおいでくださりませぬ」

「やっぱ責めてんじゃん……」

「はい?」

「いやいやなんも……。ああわかった!今年は頑張ります!」

 圭吾は仕方なく大掃除を頑張る事にした。

 すす払いから、窓拭きーと、いえもりさまの指示のもと……。

 夕方になりやっと済んだ頃

「若主さま」

 またまた神妙にいえもりさまが言った。

「なんすか?」

 流石にヘロヘロになった圭吾が答えると

「年始の挨拶の年賀が欲しゅうござります」

 と言い出した。

「何それ?」

「年賀にござります」

「年賀状?」

「違いまする。年賀でござります」

「どうすりゃいいの?」

「……できますれば、例のご酒を……」

「ええ?やだよ」

「そこのところを……」

「ええ?何本?」

「……できますれば、二本……。小さめのでかまいませぬゆえ」

「はあ?……もお」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ