夏の終わり 留守電 其の終
「なんとも………」
さも残念そうに、嘆息なども大きく吐いて見せた。
「なんとも、残念な有り様でございます………」
「へっ?」
「若!さすが、若主人様でございます」
ちょっとドヤ顔ぽい感じで、いえもりさまは、圭吾を見つめている………なんだかちょっと………いやかなり、上から目線的な?
「若。一番大事なのは、最後でござります。最後のしめ!」
「へっ?」
「その大事な最後の〝しめ〟を、台無しになさるとは、さすがとしか言いようがございません」
「へっ?なに?何がどうした?」
恐怖番組同様の現象が起こって、ちょっとパニック、かなりのチキンぶりで、鳥肌総毛立ちしていると言うのに、一体何をいえもりさまは言っているのか?
「若。この様な、恐怖体験におきましては、最後の〝しめ〟が要にございます」
「………〝しめ〟?要?」
「さようで。この様に、電話の奥から〜の、実は隣の部屋又は近くから〜の現象、及びトドメの〝こっちに来いよ〟………ぎゃ〜!となるわけでござります」
「……………」
「ところが、さすが若!その〝ぎゃ〜〟の部分をスルー又は無視して、早々に怪奇現象たる隣の部屋の時計を、確認しに参られるとは………いやはや、怪奇現象もどうしたモノかと……」
「いやいやいえもりさま、俺マジビビってるから……」
「はっ?」
「はっ?じゃねぇよ。この間見た、恐怖番組さながらの現象に、ビビリまくりだから………」
「……………」
いえもりさまは一拍置く様にして、マジ顔の圭吾を見つめる。
「若。最後のメッセージ………?」
「そんなの、聞くわけないだろ?」
「………なるほどコレを聞かずに?」
いえもりさまは、何とも器用に再生ボタンを押して言った。
「う、うわ!マジで止めろ………」
鳥肌擦り擦りしながら言う圭吾に、いえもりさまは、先程の嘆息より大きな嘆息を吐いて見せた。
「若は番組の最後も、ご覧にならなかったのでござりますね?」
「えっ?」
呆れる様に言われて、何だか立場が失くなる圭吾である。
「はぁ………コレはこういった一連の、恐怖現象にござります」
「恐怖現象に、一連の………っていうのがあるもん?」
「まっ……セット的な現象は、あるもんでござります」
「……………」
「例えばですが、トイレの花子様が、トイレとセットとか?口裂け女様が、車を追い掛けるのがセットとか……〝私綺麗?〟と聞くとか……言うなれば、真夏限定サービス的な?」
「………これって、サービスなん?」
何となく、圭吾の鳥肌が消えていく。
「現象の、サービスにござります」
「?????」
「最近面白がられております、都市伝説的な現象は、真夏限定のサービスが、多々とあるのでござります」
「それって、サービス業的なモン?」
「若。自然現象に、サービス業などあり得ません。正真正銘の、怪奇現象でござります。昔昔から、真夏になりますと、こーいった怪奇な現象が起こるのでござります。ゆえに怨恨とは違うので、誰にでも起こる……というか、場当たり的な感じで起こるのでござりますが、真夏は盆とか色々ありますゆえ、そーいった感覚を持ち合わせぬ人間にも、その現象を体感してしまう事が生じてしまうのでござります」
「………それをいえもりさまは、サービスと思うわけか?」
「これぞ自然界の、出血大サービスにござります」
ドヤ顔を見せて、いえもりさまが言った。
なるほど、何時もは感じる事も出来ない人間にも、そのちょっとした怪奇な世界を一瞬でも体感できる。確かに好きな人間にはとても嬉しいサービスかもしれないが、圭吾にしてみたら、とても迷惑なサービスである。
今迄こんなサービスが、存在していたかもしれないのだが、そーいった事全般を、避けて通りたい圭吾だから、体験しなかった事だったが、いえもりさまが居る限り、これからはそのサービスすらも、頻繁にしてもらえるのじゃないかと、ちょっと不安になる圭吾だ。