夏の終わり 留守電 其の四
それから数日経って………。
今日は午後の講義が無くなった為、誰かと遊びにでも行こうかと思ったら、大学で連んでいる連中は、バイトだっだりデートだったり、その間の空き時間を潰すくらいで、サッサと帰ってしまった。後輩である神系松田は、どうしても外せない講義があるらしいし、見習い霊能者である鈴木は、せっせと修行とデートに勤しんでいる様だ。
バイトも無いので仕方なく、ボチボチと自宅に帰る事にした。
音楽など聞きながら電車に乗っていると、ピロンとメッセージが………。
………何時に帰って来る?母今日手伝い………
近所の喫茶店に、お手伝い程度のアルバイトをしている。
定年退職したご主人が、趣味の様にまったりとやっている喫茶店なので、母親の都合のいいバイト先だが、猫の好きな常連さんがついていて、意外と忙しい時もある程だとか………。
まっ、母親の言う事だから、何処まで忙しいのかは分からないが…………。
という事で、家に帰っても誰も居ないので、居間で飲み物など持って来て、座椅子に座ってスマホなど弄っていると
「?????」
家の電話が鳴ったかと思ったら、留守電のメッセージが流れ始めた。
「おっ、留守電にして行ったのか………」
圭吾は留守電の、録音する時に聞こえる、ピーという音を聞いて、ちょっとこの間の恐怖番組を思い出してしまった。
………まじか……この間の今日で、ちょっと気味が悪い気がする………
すると留守電は、切られる事無く録音されている様だ……が、録音されている声がしない。
自慢では無いが、圭吾の耳は地獄耳である。
多分犬や猫には敵わないが、人間としては驚くほどによく聞こえる、それも特に悪口とか秘密話は得意分野だ。留守電はそんな類いのモノでは無いが、ちょっと離れた所にある電話の留守電に録音される声なんて、聞くつもりが無くたって鼓膜に響いて来る。
「?????」
切った音すらしていないのに、録音される声も聞こえないとなると、普段聞こえがいいだけに、大概の事は気にしない性格の圭吾だが、ちょっと気になってしまった。
徐に立ち上がると、最近では殆ど使う事が無くなった、家の固定電話を除き込む様に見つめた。
「?????」
圭吾はジッと見ていた電話を注視して、少し眉間を潜めた
………マジか………
「カチコチ、カチコチ………」
電話の奥で時計の音がする。
その内ボーンボーン……と、時間を知らせる音がした。
………一回、二回、三回、四回………
その音は電話の奥ではなくて、ずっと居間の先から聞こえて来た。
それは何時もいえもりさまがテレビを見ている、仏壇の在る部屋の壁に掛けられた、母親と同じ年の時計の音だ。
時計の音が鳴り終わるか終わらぬか、そんな時に誰かの声がしたが、そんな声など聞く耳も持たずに、圭吾は仏壇の在る部屋に走って行った。
ボーン………。
仏壇の時計が、確かに鳴ったのを確認して、圭吾は神棚を見上げていえもりさまを探した。
「いえもりさま?いえもりさま〜」
圭吾がそう呼びながら、仏壇の母親と同じ年の、振り子時計の振り子を見つめる。
確かにこの音だ。
「や、や、や!お戻りなされまし………」
いえもりさまは神棚の上ではなくて、天井に張り付いて言った。
「今さ……留守電にメッセージが………」
「留守電でございますか?」
「あー、あの番組みたく………」
圭吾は、今度は家の固定電話の所に行って、再生ボタンを押した。
するとカチコチと時計の音と、ボーンボーンという音が入っていて、最後に
「こっちに来いよ」
低くて恐ろしい声が、録音されていた。
「うわぁ!マジマジ……これマジ………」
圭吾は、鳥肌物で血相を変えているが、電話に張り付いたいえもりさまは、いたく覚めた様子で録音を聞いている。