夏の終わり 留守電 其の二
次の日も、その次の日も留守電は入っていた。
買い物に行ったり、友人とランチをしたり………。ちょっと忙しくて、留守電の事を忘れていたが、赤い点滅が気になって、どうしても再生して聞いてしまう。
………不思議だ。段々背後の音が大きくなっている?
そんな気になり始めた翌日、やっぱり同じ時刻に電話は鳴り、そして再生すると、黙っている相手の気配と共に、小さく時計の音がした。
カチ、カチ、カチ………。
昔祖父の家で聞いた様な………田舎の親戚の家で聞いた様な………柱時計の、時を刻む音がする。
暫くその音に聞き入っていると、目を覚まされた様に音を立てて切られた。
そしてその音は、日増しにどんどん大きくなって、まるで直ぐ側で音を立てている様だ。
………何だろう?何故だろう?………
気になるけど、受話器を取る勇気は涌かない。
当然だ。不気味だし怖くもある。
だけど、気になって仕方も無い。
そんな葛藤を繰り返していた或る日、同じ時刻に鳴った電話の側に立って、耳を近づけて聞き入った。
どうして耳を近づけたのか、それは日に日に留守電のメッセージが、小音になって来ていたからで、そんな事すらそう言えば今迄気にしていなかった。
最初に留守電に入っていた程の、微かな音でメッセージが読み上げられる。
「ただ今留守に………」
本当に小さい。
すると耳を近づけて聞き入っていたから、飛び上がる程に大きな音がした。
「ピーーー」
吃驚して身を反らすと
「カチ、カチ、カチ………」
大きな音が響いている。
「カチ、カチ………ボーン………」
「えっ?」
「ボーン………ボーン………」
柱時計が鳴っている。
それも受話器の向こうでは無くて、受話器の奥でも無くて………何処?」
心臓が激しく動いた。
ドクン、ドクン………。
ボーン、ボーン………。
「えっ?何処?家の中で聞こえる?」
奥の部屋から聞こえる気がして、意識を其方に向けた時
「其処に居るんだろ?早くこっちに来いよ」
電話の奥から、恐ろしい声がして………。
「ぎゃぁ〜」
「うわー!マジでやめろー!」
図体のデカい圭吾が、両腕を擦り擦りしながら、側で真剣にテレビに見入る母親に言った。
「うっわっ!無理無理………見ろよ鳥肌が………」
圭吾が大騒ぎしていると
「お前もか?」
隣で黙って見ていた父親が、圭吾と真逆の細い腕を見せて言った。見ると総毛立って、鳥肌迄立っている。
………チキン父子な………
圭吾は、親父のDNAかと、改めて思う。
今日は珍しく家族水入らずで、この夏最後の怪談的なテレビを見ている。
こういった番組を見ると、トイレも風呂も一人で入るのを怖がる母親が、それでも好きで見るからタチが悪い。
いえもりさまに、死なない程度に働かされまくっている父親が、久々に早く帰宅して、遊びにバイトに多忙な圭吾も、久々に家で食卓を囲んでいるにも関わらず、どうしてこんな番組見せられなきゃならんのだ!の世界である。
「全く。どうしてこんな番組な訳?」
圭吾は続きを見たくないので、さっさと立ち上がって言った。
「えっ?何処行くの?」
呑気な母親が聞く。
「はぁ?風呂だよ風呂」
「えっ?こんなの見て、お風呂入れるんだ?」
「はぁ?誰が付けてんだよ!!」
怒り心頭である。風呂に入れなくなる癖に………。
「………じゃさ、追い焚きして入ってね」
新しい恐怖話しに変わった番組に、意識を持っていかれながら言っている。
「へっ?オカン風呂入ったン?」
「………これ見たら入れないモン」
「マジか………」
用意周到な事だ。
母親は、こーいった番組を見たら、風呂とか入れなくなる。
何か周りにいる様に、思えるのだそうだ。
だったら、見なきゃいいのに………。
圭吾達の様に鳥肌なんて立てないし、案外そーゆー物が好きなのかもしれない。