夏の終わり 留守電 其の一
高齢者を狙った詐欺が横行する昨今、家の固定電話を留守電にする家庭が増えて来た。
或る日固定電話が鳴った。
留守電にしたものの、その内容が気になる………。
「ただ今留守にしています。御用件のある方は………」
一連の文句を響かせると、ピーという甲高い音がして………暫く何も言わずに切る人や、速攻で切る人がいる。
速攻で切る相手はいいが、暫く無言でいられると、それはそれでまた気になりだす。
或る日留守電の赤い光が、チカチカと点滅している。
「!!!!!」
電話による犯罪が増えて来た昨今、知り合いの話しから、留守電にしている高齢者が増えていると聞いた。
犯罪に巻き込まれない為に、留守電にしておくように、世間では推奨されているそうだ。
第一重要な事は、個人で持ち歩ける携帯に掛かって来るし、用があれば留守電にも入れるし、何度でも掛かって来るし、何といっても掛かって来た番号を、記憶しておく機能迄あるのだから、何も知らない番号をわざわざ取って話す必要は無い。
確かにそうだと納得して、我が家も留守電にした。
だって最近では、聞いた事も無いような、勧誘の電話ばかりだったもの。
だから反対に
………何か重要な事でも?………
などと不安になって再生すると、何も言わずに切っている。
………これは一体どうして?………
などとまたまた、気になりだす。
………切るならさっさと、録音迄行かない内に切ればいいものを………
何処の誰が掛けてきたのか?何の為に掛けて来たのか?
そんなの、ただの勧誘でしか無い事は、解っているのに気になってしまうのは、家電に慣れてしまっている、私の年齢の所為だろうか、それともただの私の性格だろうか?
そんな私でも、そんなこんなを繰り返している内に、段々と留守電に慣れて行った。
何件かは親戚からの連絡もあったが、事情を話して携帯に掛けてもらったり、留守電に入れてくれている。
第一私と同世代でも、驚くほどに時代の流れについて行っている者も多いから、指導などされて連絡方法を教えてもらったりして、今では留守電を気にする事も無くなってしまったし、赤く点滅している事も無くなった。
そんな或る日………
掃除をしていると、遠くの方でピーと鳴った。
留守電が入ったのだ。
最近は殆ど気にしていないから、一通り掃除をして家電の所迄行くと、赤いランプがチカチカとしている。
このチカチカ………大した事じゃ無いのに、ずっと付いていると、これもまた気になる。
家電を拭きながら、再生ボタンをそれでも念の為に押した。
録音されていない事が多いのを知りながら、それでも念の為って何だろう?
「……………………」
ピーと鳴った後、暫く切らないでいるようだ。
「えっ?」
何だか気になって再生してみた。
………微かに音がするが、何の音だろう?………と思った瞬間に、ガチャリと音を立てて切れた。
………ちょっと気味が悪い………
そう思って、直ぐに録音を消した。
次の日も同じ時刻に電話が鳴って、遠くで留守電のメッセージが聞こえる。
気になって再生すると、やっぱり直ぐに切る事無く、無言で録音が続いている。
「!!!」
………だけど昨日とちょっと違う。微かに聞こえていた、受話器の奥で聞こえる音が、ほんの少し大きくなっている?
ジッと様子を伺う様に聞き入っていると、ガチャンと音を立てて切れた。
………何で何も言わずにいる?何で録音する?………
気になって、もう一度再生を押した。
………だけど、向こうに誰かが居る気配はするものの、少しの音がするものの、判然と聞こえ無いし気味が悪い。
………とか言って、相手の息遣いが荒かったらもっと怖い………
かつてテレビで見た、変な再現ドラマを思い出してしまった。
気持ち悪いから、録音を消去した。