進歩 見習い霊能者 其の五
霊にも、いろいろとあるらしい。
地縛霊や浮遊霊とか有名だが、そういった類いでは無い、本当にヤバいヤツ………。
例えば怨霊とか怨念とか……そんな感じの、それもちょっと違うヤツ………。
日本には八百万の神々が在るから、自然界には数多の神様が存在して、その神様の分だけ妖とか物の怪とかも存在するとされていて、だからそんな妖のもの達を、祓ったりする能力者も存在した訳だが、そんな能力者でも怖じ気づいたり、手に負えないもの達がいる。大体小説や漫画ではそんな能力者って、退治とか討伐とか超カッコいい事をしているけれど、雅樹はそんな力は持っていないし、超絶能力者の斗司夫さんもそんな事はできないという。斗司夫さんの能力では、せいぜい霊を成仏させるのがやっとだ。大体そんな事になる霊ともなれば、多少の厄介ごとを含んで現世のこの世に居るから、あっさり天国に昇天とか……なんて事は無くて、閻魔様の裁決を仰ぐ事が多い。つまり成仏したといっても、一旦閻魔様の所に連れて行かれる事になる。と言っても、閻魔様=地獄では無いらしく、当然天国や極楽でも無いらしい。其処の処は斗司夫さんも、死んでみない事には判らないと言っているが、斗司夫さん自身も、完全なる死者という存在ではなく、或る神様によって、死んでいるけど、雅樹と関わり遭える場所に居る様で、其処を不思議なもの達は、〝彼方〟とか〝其方〟とか言うらしいのだが、其処も実は同じ処では無いという。それはそれはややこしくてめんどくさい所なのだが、其処に行ける様になると、全く全然めんどくさく無い所なのだそうだ。
ちょっと逸れてしまったが、つまりそんな閻魔様が関わる様な、そんな厄介な霊とかが存在し、そんな厄介な霊にはまだまだ未熟者の雅樹は、余程自身に関係が無い限り、決して関わってはいけない………と、師匠の十司夫さんから執拗に執拗に言われている。というのももっと未熟な時……そんな存在すら区別が付かなかった時に、調子こいて受けた案件で、不思議な世界から戻れなくなってしまった事があったからで、それを機に斗司夫さんは、実に有能ではあるが自身の能力に過信し過ぎる、雅樹の性格を知ってくどい程うざい程、雅樹を諌める事が多くなった。先々斗司夫さんの跡を継いで、大きな役目を果たす雅樹は、雅樹も斗司夫さんも驚く程の能力を持っているのだが、ちょっと自惚れ易いというか、自意識過剰気味な処が難である事を、雅樹自身が悟っていかなくてはならない課題であるらしい。
そんなヤバいヤツも、最近では一目で区別が付く様になった。視線を落として素知らぬ素ぶりを作っていると、雅樹の眼前にギラギラと黒い目が覗いた。
「!!!!!」
流石の雅樹もゾッとする。否、区別が付く様になったから、その恐ろしさというか、怨みの深さが解って背筋が凍る。解らなければ解らない程、恐ろしい事も無いし、恐怖も無いから背筋も冷えないし、寒気も鳥肌も立つ事は無い。解る様になるから、恐ろしくて総毛立つ。
雅樹はその瞬間、持ち前の生意気さで、総毛立ちながらもその目をガン見する。すると電車が止まったのか、ざわざわと人混みが動いて、眼前にあった黒い目は、斜向かいの椅子に男性が座ったので、雅樹の眼前から立ち去って行った。
………女性だ……それも相当あの男性に怨みを持っている……
男性が理由で死んでいるか……さもなければ……いや………死んでる………
雅樹は斜向かいに座って、携帯を取り出して見始めた男性を認めて思った。
男性は、何も知らずに携帯を見ている。
………他にも居るかもしれない………
雅樹はそう思ったが、その先を考えるのをやめた。
その男性の肩から携帯を覗く霊が、雅樹をジッと見ている。
何もするな………そう言っている。
何もできない………ロクな死に方をしないだろう男性を見て、雅樹は視線を逸らした。