進歩 見習い霊能者 其の三
「違うって気がつく?どうして?」
「だって何時も通りの日常ですもの………ただ、なんか違う様に感じる………」
「それに堵波って、凄く怖がりなんだけど、最近敢えてそういった所に行きたがる………って言うか………」
「えっ?そんな事ないよ」
「いや、そんな事あるよ」
十和田は神妙な表情を作って、雅樹を見つめた。
「夜の神社とか……夜の森林とか公園とか………この間なんて終電バスに乗って、終点迄行って暗い夜道を歩いて、最寄りの駅迄行って帰って来たんだ」
「えっ?」
「あー?あの時は、ちょっと祖母の状態が悪くなってて、面会時間ギリギリ迄居たんです。その後バスに乗って………急に終点迄行きたくなっちゃって………」
「おばあちゃんの病院から奥は、ちょっと辺鄙な所になるんだけど、其方の終点なんて………其方のバスの最終は早いから、森林の中の様な所を、駅迄歩いたって聞いて吃驚したんだ。あの辺は、余り車も通らないし暗い道だし……」
「それでも20分くらいの所に、駅があるんです」
「それも無人のな………」
十和田は、ムッとする様に言った。
確かに怖がりの人間なら、そんな状態は怖すぎる。そうでない女性でも、暗い森林の様な道を歩いて行くなんて……女性にとって恐ろしいのは、化け物や幽霊だけでは無くて、非道な人間程恐ろしものは無い。暗闇に紛れ森林に連れ込まれ……命があればいいが、異常な事をしてのける化け物より質の悪い人間もいる。
「そんな所に行っても、怖くなかったの?」
「ああ………怖くないって言うか………そう言う所が気になって………」
「えっ」
雅樹が、表情を変えた。
「………だから、避けた方がいいって言う所に、興味が行くみたいなんだ……。この間は病院近くの神社に、夜行きたいと言い出してさ……」
十和田が、苦笑する様に説明する。
「夜の神社は………」
「………だろ?ネットで調べたら、夜の神社は行かない方がいいって」
神様の事となれば、神様大好き人間の松田幸甫が煩いが、松田に言わせれば、神様がお休みなられる日暮れに、お宅となる神社に行くのなんて以ての外らしく、そりゃあ怖い顔をして叱られるレベルだ。それに神様がお休みとなられた神社には、悪い霊が集まりやすいとか言われている。
「………なぜだか急に、祖母の病院の近くの神社とか、公園とか森林もあるんですけど、そういった所を真夜中に歩いてみたくなるんです……余り車が通らずに、閑散とした静けさの中、真っ暗な夜道をずっとずっと歩いて行きたくて……だから夜中に剛君に、車で連れて行ってもらえたら、そしたら気が済むんだと思って………」
「それで十和田に頼んだんだ?」
「頼まれたんだが、なんだかいい感じしないから、だから鈴木に聞いてみようと思った……だって堵波が、そんな所に行きたがるの絶対変だ。夜の海だって、怖がってたのにさ」
確かにそういった恐怖体験を、好むタイプも存在するが、大半の人間がそういったマイナス的な体験を、わざわざしようとする事は無い。そんな異常現象とか怪奇現象などは、ある訳が無いと言う人間が殆どでも、そういった事柄に、畏敬畏怖を潜在意識の中に持っているのが、日本人だと雅樹は思っている。だって八百万の神々が存在する、不思議な国なのだから………。
そしてそういった潜在意識が強いタイプの、伊豆の様な人間が急に真逆のタイプに、変貌を遂げるのもおかしな事だ。
だが話しを聞く限り、伊豆は祖母の意識が無くなった時から、そういった普通なら避けて通る事柄に、惹かれてしまっているらしい………否、取り憑かれてしまっている?
長い付き合いである十和田は、当人すら理解していない変貌に、愛があるから素早く気づいたのだろう。
………確かに、危ないものに惹かれている………
雅樹は、老婆を見つめながら思った。