進歩 見習い霊能者 其の二
「祖母が入院していて……」
「あー。心配している様ですね?」
「やっぱり?実は………」
伊豆が、先を続け様とした時
「ごめん……」
十和田が這々の体でやって来て、伊豆の隣に腰掛けたから、伊豆は当然の様に奥の椅子に移動する。
なんとも息の合った恋人感は、付き合いが長い事を雅樹に悟らせた。
「アイスコーヒーを……」
ガタイのいい十和田は、店員に大声で注文している。
……そんなの、来てから言えばいいものを………
案の定水を持って来た店員に、同じ事を言う羽目になっている。
「もう話した?」
十和田が、心配そうに囁いている。
そんなこんなの人間の動きに、間近でガン見していた老婆は、十和田登場と共に奥の席に移動した、伊豆の背後に立っていた。だから思わず視線を、伊豆の頭に向けてしまう。
「………ううん未だ……でも鈴木さん、おばあちゃんの事を言い当ててた」
二人の会話は聞き取れるが、店員がアイスコーヒーを持って来たので、雅樹は其方に視線を送る。見たくは無いが、人間の数……否それ以上に、別の物が見える様になった鈴木は、視線を動かす方向にも安らぎは無い。
「実は祖母が入院して意識が無くなってから、不思議な事が起こる様になって………」
「へぇ?例えば?」
「最初不思議に思ったのは、夜暗くなると視界の端っこに、黒い物体が動くんです」
「黒い物体?」
「………昔見た、アニメの妖怪………というか物の怪?小さなボールくらいの大きさの物が、この位の塊になって蠢く感じの……」
伊豆はバスケットボールくらいの、楕円形を両手で作って見せた。
「それが、視界の端っこにねぇ?」
「………ええ……家の廊下や、部屋の中とか……目に異常があるのかも?とか思ったけど、明るい所ではそんな事無いんです。例えば……豆電球の明かりくらいになると……」
「それって、家だけなの?」
「いいえ。大学とか商業施設でも……ちょっと薄暗い所とかだとこの辺に………」
と顔の脇辺りに、指を持って来て説明する。
「病院とかは?おばあさん、入院して意識が無いって言ったよね?」
「ああ。病院だとソレが多いです。やっぱり病院って、霊が多いのかな?って………」
「へぇ?そんなに怖く無いの?」
「えっ?」
唐突に言われて唖然とする伊豆を見て、雅樹は小さく首を振る。
「あとは?」
「………あとは……そんな事が続いていたんですけど、なんかちょっと違う世界に居るみたいで………」
「そうそう。そう聞いてさ、鈴木に相談してみようかと……」
十和田が、助け船を出す様に言った。
「なんか少し、ボーとしてる事が多くてさ……心此処に
在らずって感じ?で、俺ほら浮遊霊憑いてたじゃん?堵波もソレかと思ってさ………」
浮遊霊憑いていた事、本気で真に受けているのか?昨今の若者達にとって、不思議世界のもの達の存在っていうのは、かなり受け止め方が違っている。昔の様に本気の本気では無いものの、とは言ってもまたまた本気の本気で否定する物でも無い。
受け入れているのも定かでは無くて、とか言って否定しているのも定かではない。雅樹もついこの間迄、そんな感じの若者だったが、今では死者を師と仰ぐガチ信仰者だ。真実、不思議世界が存在する事を知っている。知っているが、ソレを全て知る事は出来ないのも知っている。なぜなら、最強霊能者である師の斗司夫さんですら、死ぬまで知らなかった世界だからだ。たぶん大概の人間は、その不思議世界を、死んでも知り尽くす事は出来ないのだろう。
「違う世界に居るみたい?って……どんな感じ?」
「なんだか、急に薄っすら膜が掛かったみたいになって……ボーとするんです。すると「あれ?違う世界かも?」って思う。勿論直ぐに違うって気がつくけど………」