進歩 見習い霊能者 其の一
鈴木雅樹は同じ大学の友人である、十和田剛の彼女である伊豆堵波と対席して、困惑の表情を浮かべている。
「えーと………」
雅樹は同席するはずの、十和田を探して喫茶店の中を、キョロキョロと見渡した。
最近駅にできた大手チェーン店である喫茶店は、その触れ込みによって若い人達に人気のお店で、その広々とした間取りと、大きな窓硝子が広い店内を、より一層広く感じさせた。そんな店内を、雅樹が首を伸ばす様に見渡している。
「鈴木さんは大きな事故に遭って、暫く入院してたんですよね?」
「はぁ………まぁ………」
雅樹は交通事故により寝た切りとなり、目覚める事が無くずっとベットで一生を過ごす様な、そんな運命であったが、どうしても自分の心臓を、生れつき心臓疾患のあった娘に、神の様な力を持つものによって、移植してもらいたい異能者……又は霊能者とも言うべき斗司夫さんの最後の〝力〟によって、その運命から脱する事ができ、こうして再び大学生として生活できる様になった。まっ………その為に最強霊能者であった、斗司夫さんの〝力〟を継承する事となったのだが………。
そんな経過である事故の事を留年した為、友達という友達がいない雅樹の、数少ない友達である十和田は伊豆に話している様だ。まっ、彼女じゃ話しても仕方ないか………とか思ってみるものの、伊豆は雅樹と知ると
「私に何か憑いてませんか?」
とか、来店して未だ注文もしていない雅樹に向かって、唐突に店員が来ているにも関わらず聞いて来た。
「あーーーー」
雅樹は伊豆を見ると、スッと店員にアイスココアを注文した。
そこは、冷静を自負している雅樹である。
「何も付いてませんよ?」
雅樹はマジマジと、伊豆の頭を見て答えて、座った椅子を少し引いた。
「鈴木さんはその事故の後、特殊な能力を持ったんですよね?」
「………それって、十和田から聞いたの?」
伊豆が真剣な表情で頷くのを、雅樹は店員がアイスココアを持って来るのを、目で迎えながら間を置いた。
時を経て大学生に戻った雅樹は、未だに最強霊能者である斗司夫さんに修行を受けている身だ。
全くそんな能力など、持ってもいなかった雅樹が、事故からの生還と共に手にしたその能力は、余りに最強で真の物だった為、その能力の伝承者は或る神によって、能力を伝承する事を許された。つまり死者となった師から、直々にその力を引き出す教えを得られる特権だ。雅樹は最強能力者の道を歩む為、日々邁進しているのである。
そんな雅樹が十和田に憑いていた、浮遊霊的な物を成仏させた。修行の中でも初歩的な事で、雅樹が受け継いだ能力ならば、修行しなくてもできる程度の物………だから雅樹はその能力に酔っていた頃だったから、後先の事など考えずに、意図も簡単に何も考えずに、十和田からソレを祓って昇天までさせた。
そんなに詳しく話してはいないが、体調を崩していた十和田は、ソレを雅樹のお陰だと思う様になった。まっ、確かに雅樹のお陰なのだが………。
「ええ。剛君一時期凄く体調悪くて……病院に行っても全然よくなる事は無かったし、ちょっと霊感のある友達は、浮遊霊に憑かれてるって………だけどソレを祓ったら、剛君の命が危ないって………」
………いやいや、全然危なくなかったから………
「だから祓ってもらえなくて……どんどん調子悪くなってたけど、鈴木君と親しくなって行くと、具合が良くなって……或る日その友達に、浮遊霊が居なくなってるって………」
「いや。それは僕の力じゃ………」
雅樹は否定しようとして、ココアを持った手に力を入れた。
ヌッと顔面を近づけて、老婆が雅樹の顔の間近でガン見している。
「あーーーー。最近おばあさんが、具合悪いとか?入院してるとか?そんな感じですか?」
雅樹は仕方ないので、息が掛かる程の近さの老婆から、ちょっと離れた伊豆に視線を送って言った。