建替えの時 蜘蛛殿のお引越し 其の三
「へぇ〜?そんな大蛇もいんのか?」
とか感心して見せる。
「………いんのか……でござります………」
何故かいえもりさまは、ハァ〜とか溜め息を吐いて見せた。
「え?じゃあさ、裏の山の護りって誰?」
とか、聞いた処で知っているはずもないのに、なんだか知った気になって聞いてしまった。
それもそうだ。なんせ六年間、自分達の山の様な気になって、休み時間になれば、奥深くに行かなければ許されていたから、山の中でいろいろと遊んだし、虫や爬虫類などとも遊んでもらった。
蜥蜴や金蛇や蛙や、土竜や、団子虫に蟻塚に……この大都市近郊の住宅街で育った子供にしては、いろいろな生物達と関わりあえたと思うし、楽しい経験もさせてもらえたと思う。だからあそこに生存するもの達は、なぜだろう、余り好きでは無い昆虫すら、親しみある存在達なのだ。
「つまり大蛇さまがご辞退されまして、蜥蜴さまがお護り致しております」
「おっ!蜥蜴か?なるほど……あそこには居たわ蜥蜴……金蛇も居たけどな」
「蜥蜴さまと金蛇さまは、仲良しさんでござります」
「へぇ〜?そー なんだ?」
「そーなんだ、にござります」
またまたいえもりさまは、少し息を吐いて言った。
「おっ?つまり蜘蛛だから、蜥蜴に喰われるとか?」
「若。護り同士が、捕食する事などございません。我らは、生きた物を喰わずともへっちゃらにござります」
「へぇそうなのか?………そう言えば、いえもりさまの好物って、変な物ばかりだもんな」
「へ、変な物とは如何かと………」
「だって、苺の入った大福だろう?チョコレートも好きだし……」
「そ、それは美味しゅうございますゆえ……それが変な物とは?」
「ああごめん……家守としては……という意味ね………」
「はぁ……確かに……生ある頃は散々食しましたゆえ、もうそーゆー物は飽き飽きと申しますか……何故にこの様な美味なる物を、食さなんだのか……私めは口惜しくて口惜しくて……外のもの達に進めておりますが、余り興味は無いようにござります………」
「……まっ、生きている内は、蛋白質が一番なんだろうなぁ………」
圭吾がしみじみ言ったので、いえもりさまは、理解していない表情を向けている。
圭吾の脳裏には、最初に出会った時にいえもりさまが、圭吾の天敵ともいうべき、黒き魔物Gをパクリとした光景が浮かんでいる事など、いえもりさまに解るはずはない。
あの時はいえもりさまの存在というより、そのインパクトが強過ぎて、グロイものがグロイものを捕食してる光景しか、脳裏に刻み込まれていなくて、いえもりさまとの出会いを考える時には、〝これ〟しか思い出せない程だが、そんな事すらいえもりさまは知らないんだろう。
………とか、圭吾が密かに思っているのもつゆ知らず……いえもりさまは
「………何処にお移り頂けば良いやら………」
とか、独り物思いに耽る様子を作って呟いている。
つまり圭吾に話したところで………と、諦めた感が半端無い。
「………んじゃさぁ……体育館の建て替えは、校舎の後なんだろう?体育館に居たら?」
関わり合うのは面倒くさいくせに、ちょっといえもりさまの、突き放した様な感じに、寂しさなど覚えて言ってしまった。
「体育館にござりまするか?………あそこには、体育館の花子様がおいでで………」
「ええ???」
余計な事を言ってしまったが為に、知らなくていい事を知ってしまった。
「花子さんって、トイレの……じゃねぇの?」
「そう呼ばれる事もござりまするが、あそこは護りの蜘蛛殿が、子ども達が怖がりますゆえ、トイレから体育館に追いやったのでござります………その様な経緯もござりますのに………今更追いやった蜘蛛殿が、体育館に行くというのは………」
とか、小さな肩を持ち上げて言う。