感度 見習い霊能者 其の六
………生き霊か………
雅樹は、己の考えが及ばなかった存在に対して思いを馳せる。
………そう言えば田川は、以前友人の所に現れていた生き霊の願いを、家守りと共に叶えた事があったと聞いた……
雅樹はまたまた、田川が決して喜ばない事を気がついてしまった。
………あいつマジで呼び寄せ体質か………
ちょっと気の毒でもあり、羨ましくもあり、可笑しくもある。
あれ程不可解なものとの関わりを、拒絶しているというのに、持って生まれた何かが引き寄せているとしか、能力者となった今雅樹は思えないからだ。たぶんこんな能力を得ていなければ、田川のそんな体質?すら察する事はなかっただろう。
そんな事を考えていたが、斗司夫さんに一度、例のおじさんに会ってみるのも面白いかもしれない、と言われ、雅樹は会った事もない親戚の家の前に辿り着いていた。
妻に見捨てられたおじさん……といっても、孫が居ても可笑しくない、いい年のおじさんだ。
まだ孫は居ない様だけど………。
雅樹はチャイムを鳴らす事もせずに、ずっと門の前で佇んだ。
………本当だ。何かがずっと家の中で蠢めいている………
それが気になって集中しようとしたら、背後で不信感を浮かべた小太りのおばさんが、ジロジロと雅樹を見ながら通り過ぎて行った。
「やべぇ……」
雅樹は仕方なく、門に付いたチャイムを鳴らした。
だが応答はなかった。
家の中では、確かに何かが蠢めいているのに……それは決して人間では無い。
だから、おじさんでは無い事は分かっているから、雅樹は門から覗く様にしたりしながら、用事がある様に見せかける。さっきの通りすがりのおばさんの様に、ちょっと不審者に見られて、声を掛けられたら正直に親戚だと言えばいい………面識は無いが正真正銘の親戚ではあるんだから!とか、言い訳なんか考えながら、台所一点に精神を集中すると、中で蠢めいていた〝もの〟は、それは手慣れた様子でガスを点火させた。
「!!!」
雅樹が慌てて門の中に入って、台所の窓の下にやって来ると、炎では無い目映い光が台所に輝いた……かと思うと、ガスの火は静かに消され、スイッチは何事も無かった様に元に戻された。そして中で蠢めいていた〝もの〟の気配は、その神々しい輝きの中で散り散りに消え去っていた。
雅樹が静かに、家と柵との間の狭い空間で、身をかがめ頭を垂らすと、再び輝きを放った光は一瞬にして消え去った。
………火之迦具土神、三宝荒神
か………
共に家において、火の災いから守ってくれる神だ。
昨今の若い者達の家では、祀る事も無くなっている様だが、此処は出て行った奥さんが母親のその母親より、ずっと受け継いで来た事をちゃんと守って来たから、神様が家の火に纏わる災難を護ってくれている様だ………。
だから、何かしら悪意のもの達が蠢めいているが、家は護られている。
たぶんこの他にも、田川の家の様な家守りは居なそうだが、家を護っている神様がいそうだ。
雅樹がそう考えて、最寄りの駅まで戻ろうと歩き始めると、道の先から細っそりとした男が、買い物をして来たのかビニール袋を手にして歩いて来た。
その男が近づいて来る内に、雅樹は吃驚してその男をガン見した。余りに雅樹がガン見するものだから、男は怪訝そうに雅樹を見ていたが、すれ違う頃になるとあからさまに嫌そうな顔を作り、背後で大きく舌打ちをして振り返って睨みつけている様だったが、雅樹は固まる様に身を縮めて足速に男から遠退いた。
………何だアレは?生き霊?死霊もついている……アレだけついていて、生きているのが不思議だ……だがあの男は死んでいない………
雅樹は遠退いた先で、その男が先ほどの家に入って行くのを確認した。
やはり親戚のおじさんだった。