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十三夜 ぬし様の別れ 其の八

 真っ赤になったもの達が、飛び跳ねて大きな月に浮かんだ。

 滅茶苦茶エロピンクに染まったいえもりさまは、お囃子に絶妙なリズムをとってはしゃぎ跳ねて、それがとても上手いが、何故だか笑えるものだったー。



 圭吾は目覚ましの音で目を開けた。

 普段だったら、目覚ましを止めてまた寝入ってしまうが、今朝は余りにもいえもりさまの姿が可笑しくて、目覚めがよかった為パッと目が覚めた。

 目が覚めたが、ぬし様達と月見パーティをしていた林の中でないので、吃驚して起き上がった。

「チッ夢だったのか。マジ楽しい夢だったな。あのいえもりさまの格好ーってか、はしゃぎようー」

 昨夜の宴会が頭から離れない。いえもりさま達の、見たことも無い、変てこりんなお囃子や踊りが頭の中で繰り返し思い出してしまい、口元を緩くした。

「ーててて……」

 立ち上がって頭が痛いのに気がついた。

「あれ?頭が頭痛ー」

 くくく……。と痛いながらも、くだらない事を言って自分でうけている。

 今だにパーティの余韻で気持ちはハイだ。


「あれ?今朝は早いね」

 母親が目覚ましの音ですんなり起きて来た圭吾を見て言った。

「目が覚めた」

「何か食べる?」

「いやー」

 圭吾は首を横に振ると首を傾げた。


 ーバイトで賄い食を食べた翌日は、無論腹が一杯で食えないのだがー。今朝は胃がもたれ、頭も痛いー


「ねえ、すごいショックだよ」

「な……なに?」

 母親は、洗濯物を籠に入れて持って来て、肩を落として言った。

「昨日十三夜さんだったんだってー。お月見し損なったよう」

「バイトの帰り、綺麗だったよー月」

「うっ!」

 母親は、かなりのショックを隠せないまま、洗濯物を干しに二階に上がって行った。


 ー悪いな……。俺見る気なかったけど、しっかり月見してー


 ふと神棚を見ると、なんだか青く見え、ぐったりしているいえもりさまに気がついた。

「酔ってあれだけ踊りまくれば、酔いも回り翌日まで残るというもんじゃ」

「金神様がお強過ぎるのでござります……。ああ頭が」

「あれ?いえもりさま具合悪いんだ?顔色悪いよ」

 そう言って、なんだかハイな圭吾はへへへ……と笑った。

「おお圭吾。お前は元気のようじゃの?」

「えっ?」

「覚えておいでではないのでござりまするか?」

「何が?」

「ほほ……圭吾は酒豪よの」

「しゅごう?ああ……!やっぱお月見パーティ行ったよね?」

「はい。昨夜の月は実に美しゅうござりました。ぬし様もいたくご満悦のご様子でー」

「うん。楽しんでおいでであったの。圭吾の酒は実に美味い酒であったぞ。心おき無く立たれるであろうよ。ようやったの」

「はははー。まあぬし様喜んでよかったっす。んじゃ、俺支度があるからー」

 圭吾はちょっと照れたが、なんだか今日はハイな気分は変わらない。

 ふと時計を見ると、もう支度をしないと間に合わない時間になっていた。慌ててシャワーを浴びに行き、そのまま支度をして家を出た。

 家を出る時神棚を見たが、真っ青ないえもりさまが、くたくたとしていて、哀れだが笑えてしまった。


「昨夜はやっぱマジリアルかぁー。やべえじゃん……。飲酒しちまった……。現実化しないと思って、調子こいちゃったよ」

 まだちょっと頭の痛みが残るが、頭痛持ちではないので気にせずに、癖で少し背中を丸めて歩いて行くと

「やあ」

 友ちゃんちの庭から声をかけられ、反射的に顔を向ける。

「友ちゃん」

 友ちゃんが車の脇に座り来んでこっちを見て笑っていた。

「学校?」

「二限からなんだ」

「俺は休んだ」

 そう言うと足元にあった酒瓶を手にした。

「昨日変な夢見てさ。圭ちゃんと墓で見かけた大蛇や、妖怪達と月見の宴会してんの。酒で赤くなった妖怪が、歌ったり踊ったりー。ちょー楽しかった……。自分の笑い声で目が覚めたんだぜ」

 ーへえっ、友ちゃんは彼奴らを〝妖怪〟って思ってるわけねーと思いながらも口にせず

「そりゃすげえかも……」

 と、返した。

「だろ?なんか目が覚めたら気になっちゃってさ、明るくなんの待って行ってみたらーほら」

 友ちゃんは、酒瓶を二本両手に持ち上げて、圭吾の眼前に持ってきて見せた。

「げっ!明るくなんの待って、行ってみたわけ?」

「そうそう、そしたら此れが転がってたんだ」

「空瓶?」

「昨日夢の中で、此れ飲んだんだ。圭ちゃんとー」

「げっマジ?」

「ーマジ」

 友ちゃんの真剣な眼差しを見て、圭吾は大きな黒目をくるくる動かした。

 つまり困惑しているのだ。

「マジで此れ、大蛇と飲んだんだ。たぶんあれ、爺さんから聞いてたぬし様だぜ」

「ぬし様ー?」

「お婆さんから聞いてない?此の辺の年寄りはみんな見てるらしいぜ」

「へぇ……」

「俺も圭ちゃんも、ぬし様と話ししてんの。此処を去るって言ってたけどー残念だ。まあ、あの辺も家が建ったからね、しかたない……ははー夢だけどさ。夢ー」

「夢じゃないかもよ?」

「マジで?」

「マジで……」

「ははー。そうかもな……」

「はははー」

 冗談ぽく笑いあって、その先はお互い深く言うこともなく別れた。

 小さい時から、友ちゃんは圭吾と違い勘が鋭い方だった。

 友ちゃんと一緒に遊んでいると、よく何かが見えると言って教えてくれたが、圭吾には全くそういった感覚がないので、目を凝らして同じところを見ても、決して見える事はなかったが、幼い時は、不思議と 思うこともなく、友ちゃんの言う事を受け入れていた。


 ー友ちゃんは幽霊が見えるのかー的な。


 しかし、あの酒瓶が現実として残っているってのはどうだろう?それも、ちゃんと中身が綺麗に無くなっているなんてー。

 ーってか、現実として、圭吾が其処の酒屋さんで購入して、差し入れしたんだから当たり前だがー。

 中身が無くなるってどうよ?

 昨夜はあんなに、飲んでも飲んでも無くなる事はなかったのにー。


「マジやべえじゃん。っか、本当はどっちなんだ?」


 此れが〝狐につままれる〟ってやつかー。

 現実なのか幻想なのかー。

 あのもの達と、本当に月見をしたのか、しなかったのかー。

 ただ、いえもりさまは本当にいるし、金神様もいるし、ぬし様も年をとった人達が言うから、きっといるー

 あれ?本当はいないのかな……?いえもりさまも金神様も……?



 だがー。直ぐにその疑問は打ち消された。

 圭吾が家に帰れば、元の地味な色を取り戻したいえもりさまと金神様が、何故だかまだ使っていない神棚に居座っていて、楽しげにテレビを見ていたからだ。

「ははー。マジでマジかー」

「何ブツブツ言っておるのじゃ?」

「いやいや、なんでも……」


 やっぱ友ちゃんは、見れる人ということでー。

 


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