感度 見習い霊能者 其の五
だから雅樹は生き霊という存在を、自分の思考の中から抜け落としてしまっていた。
生き霊という存在が、人を危険な目に遭わせたり、陥れたりするなどしないものと、そう自分がなっていたから思ってしまっていたのだ。
確かにその時、雅樹は田川の夢の中に在って、すこぶる苦しめていた事など、考えも及ばない事だったからだ。
「………つまり生き霊となって、おじさんを亡き者としようとする、そんな身近な人間がいるって事?」
「……も、考えられるって事……」
すると斗司夫さんは、顎に指を持って行って考え込む素ぶりを作った。
「………だがそれらを全て、かい潜っているんだよなぁ………」
「有名陰陽師でも、側に居たりして……」
最近ちょっとハマっている、漫画の主人公など思い出してみて、雅樹は揶揄う様に言ってみた。
「はは……陰陽師……そりゃぁ君だろ」
「えっ?マジ?」
「僕らのやってる事はさ、時代によって呼び名も変わるし、語る相手によっても変わる……ただ、ドラマや漫画の世界の様な、戦闘とか死闘とか退治、使役なんてないけどね」
「………使役かぁ……ちょっと能力頂いちゃったから、陰陽師とか闇祓い師とか呪術師の本を読んでるんだけど………」
ちょっと見栄を張ってる。実は漫画……コミックが主だが、全く其方の系統に関心を持たなかったが、最近はハマって読んでいる。
あくまでもマンガだが………。
「使役とか、カッコいいスよね?」
「まっ、本当にできたら……だろうけどね……。確かに不思議な力を持ち、使える人間っているんだ。病気とかも治せる人もいる」
「マジで?」
「ただ、そういったものは、本当の能力なんだ……〝力〟なんだ。持って生まれた物で、普通の人間が、簡単に手に入れられる物じゃない……だから、真実の〝力〟を持った人間ならば、かつて使役もできたかもしれない……とは思うけどね。到底僕や君の能力じゃ無理だな……僕が無理なら、そんなにいないと思うよ」
「………そんなに、斗司夫さんは凄いんだ?」
「まぁ……君をこうして元気にしたし、死して君に能力を授けられたからね」
得意げな表情を浮かべていたが、ハタと雅樹を見つめて笑った。
「………だが君の方が、数段上になり得る可能性が高いな」
「いやぁ……僕は持って産まれてませんって……」
「いや。君には僕がついているし、それよりも僕の願いを叶えられた……あの実篤様を探し当てられた……それは、君には隠れていた能力があったって事だ……まっ、その君を見つけた僕は、やっぱり凄いのかな?」
斗司夫さんが、カラカラと笑った。
死んでしまった人間なのだから、斗司夫さんは幽霊とか霊とかいう存在で、陰陽師とか闇祓い師とか呪術師とかがいたら、サッサと調伏とか成仏とか退治とかされてしまうわけで、一般的には霊と呼ばれるようだが、実はそうではないらしい。其処の処の区別というか、存在というか、実に難しいというかあやふやというか、大雑把というか………兎に角人間社会で語られている様な、そんな判然とした区別が無いのが不思議な世界で、つまり斗司夫さんは霊なのだが、我々の認識している霊ではなくて、彼方という、またまたあやふやというか判然としない不思議世界において、神様……人間が思う神様ではなくて、八百万の神という沢山の神様が許す、又はその使い目とか主とかが許して今生に滞在しているものは、一般に認知されている幽霊とかとは別なのだそうだ。
………ただ其処の処を、しっかりと知るには、斗司夫さんの様にならないと、知りようがないそうで、それを斗司夫さんから教えてもらえる雅樹は、実に幸運な能力者という事になるらしい。