感度 見習い霊能者 其の四
「佐伯のおばあちゃんの、お兄さんなんだけど……」
佐伯のおばあちゃんとは、母方の祖母の事だ。
「今は年金暮らしなんだけど、ほとんどギャンブルに注ぎ込んじゃって、友子さんの年金で、生活してる状態だっていうの……娘の沙奈ちゃんの結婚とか、元治君の家建てるのにお金使ってるし、大半はギャンブルに注ぎ込んじゃってて……元々人の言う事聞くタイプじゃないし?友子さんが、愛想を尽かした感じね……それなのにお金が無くなれば、子供の元治君に借りに行くから……」
母は大きく、溜め息を吐いた。
「………そんな親戚いるの、初めて聞いた」
「雅樹が小さい頃は、真面目に働いていたと思うわ……いつ頃からかしら?別れ話しが出てるって聞いて、熟年離婚?……とか心配してたんだけど………」
一旦話しを止めて、真顔を向ける。
「それが友子さんが家を出てから、いろいろおかしな事が続くって……お金を元治君に借りに行っては、溢してたらしいのよ」
「おかしな事?」
「ああ……車での事故は何度か、危ない状態が続いてたみたいで……そろそろ免許証の返還をする様に、元治君も勧めてたみたい。あと消したはずなのに、炬燵やストーブがついていたり……鍵が締めていなかったり……友子さんも居ないから、台所のガスを消し忘れたり……?」
「痴呆ってヤツじゃないの?」
「………とも考えられるから、元治君は心配してるんだけど……とにかくお金を賭け事に使って平気でしょ?友子さんが一緒に暮らせないって……」
「それも、痴呆の始まりだったりして?」
「えっ?そうかしら?ギャンブルにハマったのもその所為かしら?」
「いやいや、それは分からんけれども……」
雅樹はちょっと、不思議な感覚を覚えて話しを切り上げた。
何かが引っかかる……だけど何だか分からない。
ギャンブルにハマったのは分からないが、行動から見ると痴呆と間違えられてもおかしくないかも?かなり危ない感じだ。だがどうも引っかかる、何が?
雅樹は気になり出したら、とことん突き詰めるタイプだ。
どこかの誰かとは大違いだ。
だから今や一番信頼を寄せている、生きている人ではない、それでいて師匠と仰ぐ斗司夫さんに相談した。一体自分が何に、引っかかりを持っているのか、それは霊能者としての引っかかりなのかどうか………。
「面白いね」
すると斗司夫さんは、月明かりで微かに明るい斗司夫さんの家で、今では斗司夫さんの娘の、枝梨の家となった二階の部屋で、腕を組んで微笑んで言った。
「話しを聞く限り、限り無く痴呆症を疑いたくなるけどね……」
「………ですよね?」
「………でも気になるのが、結局事故を起こしてるんだが、車で危ない状態が続いた……って事だ」
「そうなんだ……けど……それだって、結局おじさんの運転ミス?とも言えるし……」
「いや、其処じゃない!」
斗司夫さんはとても優秀な弟子を、嬉しそうに見つめて雅樹の前に座った。
「事故を起こして、元気だって事……」
「えっ?」
「考えられるのは、普通の人間ならば、加齢による判断ミス、又は呆け……ひいては痴呆症?」
「……まぁ……」
「処が君は僕が見出しちゃったから、そういった物以外の可能性も考える」
「……まぁ……」
「例えば霊的な作用……例えば妖……例えば物の怪……例えば生き霊……」
「えっ?」
雅樹は愕然とした様に、斗司夫さんを正視した。
かつて交通事故に遭い、生死の境を彷徨っていた時に、雅樹は寿命で死に逝かねばならない斗司夫さんに、枝梨の心臓の交換をできるものを探しあて、交換してもらう事を条件に、斗司夫さんの不思議な能力と生きる力を与えてもらった。そして未だ病院から抜け出せなかった雅樹は、ずっと病院の側の交通事故現場に、生き霊として佇み力のあるものを探していた。それは病院を退院してからも続け、そしてその力を持つ大物を知る田川を見つけたのだ。