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不思議噺 思い出の中の風景 其の後編

 そんな山道を下って行くと、眼下に広がる少しの住宅地と、道を隔てて広がる田園風景……。とても広く、高い建物が存在しないから、遠く迄広がる風景………。

 私が今も、忘れられない光景だ。

 その坂を下り切らぬ手前に、田んぼの畦道に続く小道があって、私は何時もその光景を夢に見て考えている。

 あの道の先には、何があるのだろう………?

 だが私はそれを知っているのに、夢の中では何時も思うのだ。

 あの先はただ田んぼが在って、行き止まりだったのに………。

 私はずっと、この年になるまで同じ事を、夢の中で考え続けていた。

 そして、ずっと子供の私の疑問…………。

 あの暗く生い茂る木々のその上……つまり私の中では、木々が生い茂る山のその先……祠やお地蔵様が、置いてある洞穴のその上……其処には何があるのだろう………

 ずっと思って、小学校へ通っていた。

 そして最近私は、その先の……木々が生い茂るその上を、夢で見る事ができた。

 広く広がるお花畑………色とりどりの花々が咲き乱れる、それは広い野原………


「野原だったのか………」


 私は、夢の中で納得していた。


 ………ああ、なんて綺麗な……あの頃友達と見つけた、てんとう虫の楽園の様な……そんなお花畑………



 其処に居たのは父が亡くなるまでの、ほんの二、三年………。

 その後母は実家に私を連れ帰り、そこから仕事に出たから、其処がどの様に開発され、どんな近代的なお洒落な街へと、変貌を遂げたか判らない。

 だから私の中の()()は、ずっとそのまま存在していて、今も家の外に出れば、大きな青大将が道を悠々と横切り、畑の先にある谷の下には蝮が居て、其処に足を踏み入れる人間に噛み付いていて、死んだ人もいたりする。

 夏には近くのくぬぎの木にクワガタやカブトムシが、カナブン達と蜜を吸いに来て、夜窓を開けていると、家の灯りに誘われた虫達か、金網に張り付いていて、今でも人気のあるクワガタやカブト虫は、夏の間の私の友達で、ある日隙を見て逃げて行き、そしてある日再び灯りに誘われて囚われに来る……そんな事を繰り返して、最後には帰って来る事はなくなる。

 秋になれば稲穂が黄金色に輝くその田んぼの中に、私は泳ぐ様に身を投じて、地主のおじさんに母が文句を言われ、野菜を取り切った畑には、掬えば手に何匹と入るコオロギを捕まえ、夜になれば其処彼処で虫達が鳴いている。

 そして春には菜の花畑に、農家のおじさん達が困惑する程の、てんとう虫の楽園を見つけた。

 七星てんとう虫から二十星てんとう虫(私達はそう言っていた)迄。

 それは、てんとう虫だらけの楽園だ。



 そして今では、ずっとそんな夢の中に居る。

 毎日、そんな懐かしい田舎に暮らして、虫や鳥や花々と過ごして、そろそろお迎えが来るのか、その山の頂上のお花畑を夢に見る。

 その山の頂上には菜の花だけではなくて、色んな色の花が咲いていて、名前を知っている花も、知らない花も見かけるけれど、どの花もとても綺麗だ。

 そしてその花達の側には、いろいろな虫達が〝てんとう虫の楽園〟の様にいて、それはいい音色で鳴いている。

 私は何時も心地良くて………ずっと其処に居たいと思っている。

 だから毎日高く高く飛んで、そのお花畑で遊んで暮らしている。


 其処には若かった父と母が、小さな家に私の帰りを待っていてくれて、畑のその先には、懐かしい友達達が両親やきょうだい達と住んでいる。

 森の中には、地元の友達の家や親戚達の家が在り、森から出ると抉った様な谷も在り、私は友達達とその谷に探検に出かける。

 だが、その友達にはもはや顔は無い。

短いお話しをお読み頂き、ありがとうございました。

また〝いえもりさま〟で、お会いできたら倖せでございます。

ありがとうございました。

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