不思議噺 逢魔時から 其の二
その瞬間それは厭な感覚に襲われたから、慌てて階段を降り息子に連絡を入れ様と、コートのポケットに手を入れて携帯を探した。
「えっ?」
ポケットの中に有ったのは、息子のゲーム機。それも子供の頃に使っていたヤツに似ている。
……これでは連絡が取れない……
と困惑した瞬間に、ゲーム機が鳴った。
慌てて訳も分からず手にすると
「もしもし……」
「えっ?セイちゃん?今何処?」
「中央……」
「えっ?」
「中央に居るから……」
それだけを言って、切られてしまった。
……中央って何処さ?……
聞きたいが使い方が解らない、とにかく中央……来た所に戻るしかない……。
階段を降りて闇雲に歩いて行くと、駅のゴミ捨て場みたいな所に辿り着いた。
そのゴミを横目に見ながら進んで行くと、むかーし昔使っていた、何だか懐かしい座椅子が目に入った。
「あんた此処にいたのね?」
とか思っていると、その座椅子の下に落ちて行く。
ゴミの中を落ちて行くと見慣れた風景となって、改札口の脇にある小さな商店の前に立っていた。
……ああ、この裏が神社の在った場所だ……
「お客さん、何かご利用で?」
店のおばあさんが、店の前に掛けてあるオレンジ色のグミを指して聞いた。
「あ……じゃ、これを……」
私は急に一緒に車に乗っていた、年老いた母と息子を思って、二人共お腹を空かしているかもしれないと、土産に買って行く事にしてお金を払った。
「あなたのお母さんは、それは年老いても元気で歩き回っていますよ」
店のおばあさんが言った。
「えっ?ああ、そうだ。母は息子と一緒に居なくても、それは元気で私より動けるのだ……」
……そうだ一緒に居ない方がいい……
そう思った瞬間、私は買ったはずのグミが無い事に気が付いた。
「あの……私グミを買いましたよね?」
「えっ?」
おばあさんの顔が霞みに掛かる。
いや、最初からおばあさんの顔は、ずっと霞んでいたのかもしれない。
私が手にしていたはずのグミを探していると
「母さん……」
息子の声がして、店の裏の方に在るはずと思った、神社の方に視線を向けた。