不思議噺 魔逢時から 其の一
「此処は真っ暗なんだけど、近道なんだ。真っ直ぐだから、目を瞑ってたって行ける……」
うとうとと後部座席で船を漕いでいた私の耳に、そんな主人の声が聞こえた。
……対向車が来たらどうすんのさ……
寝ながら私が思った言葉だろうか?助手席に居るはずの、息子が言った言葉だろうか?
「……大丈夫、来やしないから……」
そう行って細い道をちょっと走ると、車一台が通れる程の高架下にあるトンネルに入って行った。
……その時私は目を覚まして、もたれ掛かって寝ていた車の窓から、車が通り過ぎる時だけに目に入る車窓を眺めた。
大きな穴が所々空いていて、その中に鳥居の様な物や、お地蔵さんや祠、石の様な物が目に入るが、本当に暗闇の中を走っているのだろう、直ぐ様その景色は流れて消えて行く。
……気味が悪い……
一瞬そう思った時に、前方が明るくなって来た。
……なんだ本当に直ぐに着いた……
とても賑やかな駅の真横に神社が在って、其処に車を止めて主人が降り立った。
私は大慌てで車を降りると、何故だか主人の後を追う。
車の前はそんなに大きくない神社が在るが、主人はさっさと隣に在る駅へ向かっている。
何故駅に向かっている……と思ったのかというと、線路脇を歩いているからなのだが、その線路脇を驚く程に大勢の、エンジ色の体操着を着た中学生だろうか?否、もうちょと大きい気がするから高校生かな?どちらとも解らない、とにかく学生が楽しそうに歩いている。
いや……道の真ん中にマイクを持って、それは大騒ぎで歌を歌ったり踊ったりしていて、歩行者天国?いやいやお祭り騒ぎだ。
そんな活気があり、楽しい雰囲気の中を縫う様に、私は最近ではそんなに仲が良い……とは言い難くなった夫を、久々に追いかける様にして、何時もと変わらずの様子を見せて、さっさと私など置いて先に行く後を追いかけている。
エンジ色の学生達に混ざって、ブレザー姿の学生達の姿も行き交った。
そしてその時私は、彼らは修学旅行に来ているのだと〝何故だか〟確信しているのだ。
「……………」
そんな彼らを確信して視線を、先行く主人の方に向けると、ハタと久しぶりに主人と目が合った。
本当に最近は、互いに視線を合わせる事も無かったから、その主人の視線にたじろいだりして見るが、主人は相も変わらずに、怪訝そうに無言で私を見つめている。
……ハッ、これって邪魔って事?……
気が付けば其処は駅のホームで、白い線が引いてある。
……えっ?切符が無いのに、入っちゃダメだ……
私は意味ありげな白線の後ろに、慌てて下がったが、主人は私を一瞥してどんどんと先に歩いて行ってしまった。
ホームは真っ赤な夕日が染めていて、ホームの中央辺りから海の景色が見えるらしい。その景色を主人は見に行くのだと、私はまたまた確信した。
……そうだあの人は交通系ICカードを持っている。専業主婦で、必要なくて持っていない私とは違う……
そう思った私は、白線を見てホームから出た。