法事 母親の話 其の一
今日はホームセンターに、大物の買い出しがあるとかで、圭吾は母親に車を出させられている。
父親が今日は帰りが遅くなるので、ついでに夕飯も外で済ませる算段だ。
母親は料理上手な祖母に教えられたから、圭吾の為に祖母の味を守っている。………が、祖母が好きであった調味料と、圭吾が好む調味料が微妙に異なるが為に、多少圭吾好みに我が家の味は変化している。とはいえ先程も言った様に、祖母に教えられたから料理は美味いし、昔ながらの家庭料理は上手に作る。
ところが原来母親は、料理が好きでは無いらしい。
圭吾が幼稚園の頃から高校生まで、母親は文句を言い言い弁当を作ってくれたが、弁当を作るのが嫌いなのだ。一つには面倒なのもあるだろうが、弁当というものは季節によって腐ったりする。一度も圭吾は経験した事がないが、それに神経を使うのがイヤなのだそうだ………。
第一圭吾は、温かい物は温かく冷たい物は冷たく頂きたいタイプだから、温かくなく冷たくもない弁当という物は好きではない。だから保温性のある弁当箱にしている訳だが、母親はそれを信頼していないから、腐るのじゃないかと疑ってかかるから、とても変な処に神経を使って疲れるわけだ。
なぜもう少し違う処に使わないのか?圭吾はそっちの方が気になる処だ。
話しはかなり脱線してしまったが、そんな母親だから、何かと理由を付けては外食をしたがる。
まっ、料理上手なばあちゃんですら、外食するのは大好きだった。
つまりやっぱり、プロの味は凄いという事か………。
そんな母親が希望通りの買い物と外食……に、かなりテンションが上がって上機嫌だ。
運転に集中しなくてはいけない圭吾を余所に、先程からずっと話し続けているが、さすがに育てられている圭吾は、聞くべき処とそうでない処の区別をもはや耳の時点でしている。
「………この間、田舎に行ったじゃない?」
「田舎?」
圭吾は右折しながら問い返す。
「ああ?父親の……あんたのお祖父さんの……」
「ああ。オカンの伯父さんの?」
「そうそう……」
母親の父親は早くに亡くなって、祖母が女手ひとつで母親を育てた。
かなりヤンチャな性格で、子供の頃はかなり悪ガキであったらしい。
下級武士の家系であった様だが、其処の処は嫁だったばあちゃんも深くは知らないらしい。そんなご先祖様の因縁や祖父さんの悪業などで、祖父さんの家系は絶える運命であった様で、祖父の兄妹の子供達の中で唯一の男の子であった、次男の息子が早くに亡くなってしまった。他の女の子供達は、当然ながら他家に嫁いでしまっている。
三男であった早死した祖父の子供の母親ですら、祖父の家に入っているとはいえ、一応父親の姓に変えている。それも父親は婿養子も気にしていなかった様だが、母親が田川の姓に入る事を望んでそうした様だから、やはり母方の祖父の家は絶える運命にあった様だ。
まっ、もっと広く見れば、田舎にはその血筋の者達は存在するが、今となっては付き合いもないそうだ。
そんな母親の父親の兄が、八十歳の天寿を全うして幾度目かの法事に、母親は一人で新幹線に乗って旅行気分で行って来ているので、どうやらその時の事を言いたいらしい。
「何時もはさ……」
といっても遠い親戚だから、そんなに頻繁に行っているわけではない。
圭吾を育てるのと、祖母が元気にしていたとはいえ生存していたのだから、介護といった手のかかる事ではないにしろ、年老いた母親の面倒はしっかりと看ていた為、母親は家を数日空けて出掛ける事などした事がなかったのだ。
そんな母親が、調子に乗った拍子に思い出した様に言う。
「華絵ちゃんの所に、泊まるんだけどね……」
その言葉に圭吾は、またまた物凄く厭な感じを持たずにいられない。