空き家 売れない家 其の終
「………と言うわけで、あそこの木々達は彼方にぬし様とお出でで、それは綺麗な花を咲かせ、銀木犀などその香しさが増しに増しておりまする」
「はぁ?やっぱ彼方ってぇのは、あの世の事だったか……」
「若、何度も申し上げておりますが、彼方とあの世は別物でございまする。べ・つ・も・の!」
といえもりさまは、〝お・も・て・な・し〟みたいな仕草を作って言った。
それもかなり、上から目線での言い様だ。
「分かった分かった……ていうか、ぬし様も元気なのか?」
「お元気なんて物ではございません。もー現世の穢れでお弱りだったお体が、それは回復なさり、ピカピカの色艶にございます。やはり我らは、ずっと現世にいると穢れて、薄汚れてしまう物なのでございましょうか?」
などと、真剣に考えている。
「あーだったら、いえもりさまも暫く彼方に行って来れば?」
「はい……そのつもりにございます」
「えっ?マジで?」
「はい……若主人様が身罷られましたならば……」
「み、みまかられ?」
圭吾は、手慣れた様子でググろうとスマホを手に取る。
「亡くなられたら……でございます。暫しお暇頂き、彼方に……さすれば、暫し若とも共におられまする」
「やっぱあの世なんじゃん?」
「ですから、あの世ではございませぬ。彼方は彼方。此方は此方。あの世はあの世にございます……全く何度言えば理解できるのやら……」
とか、それは小声でグチグチ言っているが、地獄耳の圭吾には聞こえてしまう。
「はぁ?いえもりさま、かなり最近強気だよねー」
「つ、強気など……」
ふにゃふにゃしながら、慌てふためく姿が面白い。
ついつい、揶揄いたくなるキャラだ。
「………って言ってるが、あの世で俺と居たいんだろう?」
「……ですから!あの世ではございません!彼方にございます」
「………ああ、めんどくせぇ、其処で俺とも少し一緒に居たいんだ?メタクソ俺様の事好きなんだなぁ?」
圭吾はそう言うと、ふにゃふにゃのいえもりさまの頭を軽く撫でた。
死んでもまだ、一緒に居たいと思われるのは悪い気がしない。
そしていえもりさまが我が家に存在する限り、我が家の植物達も安泰だ。
とにかく家の繁栄を望むいえもりさまだ、この家はずっとこのままだろう……建て替えさせられるにしてもこのままだ。そしてこの小さな庭の木々達も……。
もしかしたら、ウチもぬし様にお許し頂いていて、庭の木々達は〝精〟を頂いているかもしれない。
それはそれで、かなり厄介な事だと思う圭吾である。
いえもりさまだけでなく、木々迄もが喋って見下す様になったらどうしよう……。
見下されぬ努力をしようなどとは、絶対に考えが及ばぬ圭吾である。
さてあの土地に家が建ち始めた。
最近の家特有の、しっかりした土台はコンクリートで固めてられ、神が許した土の上に存在している。
だがその土台の下の土は陽に当たらず、風も通らない。雨が降ればただ水が浸透して、乾く事ができるのだろうか?
それが果たして良い事なのか、無知な圭吾には分からない。分からないけど、自分が建てる家は、やはり陽は当てられなくても、風が通る様にできたら良いな……と、フッとそんな風に思うのだ。
お読み頂き、ありがとうございます。
恐ろしいコロナなども現れて、現世は今大変でございます。
元気で再び、お目もじ致したく存じますm(__)m