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空き家 売れない家 其の六

 元晴がずっと居続けた元晴の家は、仮令人間社会で子供達の物となっても、自然界では元晴のものだ。

 特に此処は、大蛇のぬしが神より司る事を許されて守っていた。

 そのぬしが許した処だから、死して返さぬ限りずっとその者の物なのだ。

 そして元晴は、ぬしから此処を許された者だ。つまり元晴が返上しない限り、此処は元晴の物で高々の人間が勝手に売れる物では無い。

 それも人間の私利私欲の為ならば……。

 それもぬしが今生に存在した時期ならば、()の元晴も簡単に返上しに行けただろうが、ぬしは此処を見限って処替えをしてしまっている。つまり元晴が()()に行かなければ返上できない。

 だが彼方とはなかなか難しい処で、そう簡単に行ける場所ではない。

 あの世とも繋がっているし、この世とも繋がっているが、それでも許される事が簡単では無い世界だ。

 だからこの土地は下手をすればずっとずっと……元晴が居なくなってもずっと、人の手に入れられぬ土地と化す場合がある。

 今生には決して、人が手にできない物が存在する。

 例えば忘れられた土地、物等々………。

 それらは大概の人間は、それを国の物と解釈する。そしてそれは強ち間違いではなくて、御国の物は神の物であるからだ。

 此処日本は神の国で、尊き天子は神の末裔だ。

 だから御国の物=神の物で、決して人が手にしてはならない物だ。

 つまり今現在元晴の土地はぬしが与えた土地であり、ぬしの土地は神が許した物であり、つまり神の土地であるから、決して売れる事は無いのだ。

 そしてこの尊い土地に根を這わせた生き物達は、最早神の物と化していて〝精〟を得ている物達だ。


 その後一年と経たずに、正治が死んだ。

 すると正治が、門の前に立った。

 門番の様にずっと佇んで来た松は、正治が最期を迎えたのを知った。


「お帰り正治」


 梅や躑躅は、身を揺らして言った。


「只今。やっと帰って来たよ」


「いやいや、お前は此処に帰って来ちゃ駄目だろう?」


「えっ?だって親父は……」


「元晴は我らの為に此処に居る。我らを此処に連れて来た責任を感じて……だがそれもそろそろ仕舞にしたい」


「なんで?俺が此処に帰って来なかったから?だから親父は……」


「まっ。元晴はお前に我らを託したかったろうが……それも天意だ気にするな」


「そうそう……我らもそろそろ……」


 植物達は再び身を揺らして、嬉しそうに言った。


「夕子を見送ったら元晴も気がすむだろう……それまで我らも元晴と共に居てやるから、お前は先に行って真知子に伝えてやれ……もう少ししたら元晴も行くから、そしたら暫く二人で過ごし、転生してもよしそこで仲良く暮らしてもよし……そうだなぁ、其処に我らも共に行こうか?」


 門の松はカタカタと門を鳴らして笑ったので、家の中に居た元晴が出て来て正治の魂を迎えて家に消えた。

 だがそれから暫く夕子は長生きをして、そして夕子も長寿を全うして、今生の別れにこの家を訪れた。

 相変わらず松は青々と形良く、紅梅白梅の花がそれは見事に咲いていた、まだまだ寒い日であった。

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